2.2.1 植生調査

 


●第2回調査(54年度)と合わせて、全国土の『5万分の1現存植生図』が完成した。全
  国土をカバーする5万分の1レベルの植生図の完成は世界的にもあまり例がない。
  植生図に表された植物社会学的群落分類(凡例)も、わが国の多様な植生を反映して、
  全国統一凡例に地方特有のものを加えると、計766群落にのぼる。
●寒帯・高山帯、ブナクラス域等の植生区分別の分布の概要が把握された(図2-2-1、
  表2-2-1)。
●第1回調査(48年度)と同様に、全国の植生を人為による影響度合に応じて10ランクの
  植生自然度に区分して集計した結果、わが国の森林(自然度9〜6)は、約25万km2、国
  土の67.5%を占めている(表2-2-2)。
  一方、自然林に自然草原を加えた自然植生は、国土の19.3%と2割を切っており、また、
  自然植生のうち2分の1以上が北海道に集中している(表2-2-3)。

表2-2-1 全国・地方別植生区分の出現頻度

比率の上段は植生区分別の全国計に対する構成比
比率の下段は地方別の計に対する構成比

   地方


植生地区
北海道
東 北
関 東

中 部

近 畿
中 国
四 国
九 州
沖 縄
全 国
メッシュ数

比率(%)

メッシュ数
比率(%)
メッシュ数
比率(%)
メッシュ数
比率(%)
メッシュ数
比率(%)
メッシュ数
比率(%)
メッシュ数
比率(%)
メッシュ数
比率(%)
メッシュ数
比率(%)
メッシュ数
比率(%)
寒帯・高山帯自然植生
713
61.57
0.85
97
8.38
0.14
19
1.64
0.06
329
28.41
0.51
0
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
1.158
0.31
亜寒帯・亜高山帯自然植生
11.715
72.55
13.95
805
4.99
1.2
672
4.16
2.14
2.948
18.26
4.58
7
0.04
0.02
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
16.147
4.38
亜寒帯・亜高山帯代償植生
651
62
0.78
79
7.52
0.12
22
2.1
0.07
278
26.48
0.43
3
0.29
0.01
0.00
0.00
0.00
17
1.62
0.1
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
1.050
0.28

ブナクラス域自然植生

28.273
62.62
33.67
8.452
18.72
12.59
1.056
2.34
3.37
6.103
13.52
9.47
388
0.86
1.23
171
0.38
0.56
266
0.59
1.49
439
0.97
1.11
0.00
0.00
0.00
45.148
12.25
ブナクラス域代償植生
7.408
17.54
8.82
14.929
35.35
22.24
2.135
5.06
6.31
13.923
32.97
21.61
1.267
3.00
4.02
1.817
4.3
5.95
298
0.71
1.67
455
1.08
1.15
0.00
0.00
0.00
42.232
11.46
ヤブツバキ域自然植生
0
0.00
0.00
623
10.26
0.93
167
2.75
0.53
208
3.43
0.32
552
9.09
1.75
255
4.2
0.83
361
6.28
2.13
2.990
49.26
7.54
894
14.73
42.51
6.070
1.65
ヤブツバキ域代償植生
0
0.00
0.00
7.286
12.59
10.86
4.040
6.98
12.89
7.441
12.85
11.55
10.071
17.4
31.99
15.699
27.12
51.37
5.434
9.39
30.42
7.733
13.36
19.51
182
0.31
8.67
57.886
15.71
河辺・湿原・塩沼地・砂丘
988
39.32
1.18
422
10.79
0.63
296
11.78
0.94
196
7.8
0.3
154
6.13
0.49
59
2.35
0.19
50
1.99
0.28
231
9.19
0.58
117
4.66
5.58
2.513
0.68
植林地・耕作地植生
31.347
18.5
37.33
31.311
18.84
46.65
17.283
10.2
55.16
27.541
16.25
42.75
15.248
9.00
48.43
10.764
6.35
35.22
10.566
6.24
59.16
24.589
14.57
62.3
711
0.42
33.89
169.460
45.99
その他
2.881
10.75
3.43
3.110
11.6
4.63
5.641
21.04
18
5.449
20.33
8.46
3.792
14.15
12.04
1.795
6.7
5.87
849
3.17
4.75
3.095
11.55
7.81
194
0.72
0.25
26.806
7.27
83976
22.79
67.114
18.21
31.331
8.5
64.416
17.48
31.482
8.54
30.560
8.29
17.861
4.85
39.632
10.76
2.098
0.57
368.470

100.0

  

 


この表は,経線,緯線によって区切られた約1km2ごとの現存植生図情報を集計整理したものである。

地方区分) 北海道:北海道: 東北:青森,岩手,宮城,秋田,山形,福島 関東:茨城,栃木,群馬,埼玉,千葉,東京,神奈川中部:新潟,
        富山,石川,福井,山梨,長野,岐阜,静岡,愛知 近畿:三重,滋賀,京都,大阪,兵庫,奈良,和歌山 中国:鳥取,島根,岡山,
        広島,山口 四国:徳島,香川,愛媛,高知 九州・沖縄:福岡,佐賀,長崎,熊本,大分,宮崎,鹿児島 沖縄:沖縄


表2-2-2 植生自然度区分基準

植生自然度
区分基準
10
高山ハイデ風衝草原自然草原等自然植生のうち単層の植物社会を
形成する地区
9
エゾマツ−トドマツ群集ブナ群集等自然植生のうち多層の植物社会
を形成する地区
8
ブナ・ミズナラ再生林シイ・カシ萌芽林等代償植生であっても特に
自然植生に近い地区
7
クリ-ミズナラ群集クヌギ−コナラ群落等一般には二次林と呼ばれ
る代償植生地区
6
常緑針葉樹落葉針葉樹常緑広葉樹等の植林地
5
ササ群落ススキ群落等の背丈の高い草原
4
シバ群落等の背丈の低い草原
3
果樹園桑園茶畑苗圃等の樹園地
2
畑地水田等の耕作地緑の多い住宅地
1
市街地造成地等の植生の殆ど存在しない地区


表2-2-3 全国・地方別植生自然度の出現頻度

比率の上段は植生自然度別の全国計に対する構成比
比率の下段は地方別の計に対する構成比

    地方

植生自然渡
北海道
東 北
関 東
中 部
近 畿
中 国
四 国
九 州
沖 縄
全 国
メッシュ数
比率(%)
メッシュ数
比率(%)
メッシュ数
比率(%)
メッシュ数
比率(%)
メッシュ数
比率(%)
メッシュ数
比率(%)
メッシュ数
比率(%)
メッシュ数
比率(%)
メッシュ数
比率(%)
メッシュ数
比率(%)
10
自然草地(自然草原・湿原)
1.896
46.95
2.26
617
15.28
0.92
346
8.57
1.1
581
14.39
0.9
155
3.84
0.49
60
1.49
0.2
50
1.24
0.28
216
5.35
0.55
117
2.9
5.58
4.038
1.1
9
自然林(相林またはそれに近い群落構成を示す天然林)
39.793
59.41
47.39
9.782
14.6
14.58
1.861
2.78
5.94
9.203
13.74
14.29
946
1.41
3.00
425
0.63
1.39
647
0.97
3.62
3.428
5.12
8.65
894
1.33
42.61
66.979
18.18
8
二次林(自然林に近いもの)
2.138
10.67
2.55
3.822
19.07
5.69
606
3.02
1.93
4.685
23.37
7.27
1.707
8.52
5.42
800
3.99
2.62
1.759
8.77
9.85
4.502
22.46
11.36
27
0.31
1.29
20.046
5.44
7
二次林
2.836
4.02
3.38
16.255
23.06
24.22
4.972
7.05
15.87
15.529
22.03
24.11
9.341
13.25
29.67
15.082
21.4
49.35
3.899
5.53
21.83
2.570
3.65
6.48
0
0.00
0.00
70.484
19.13
6
植林地
14.140
15.53
16.84
169.895
18.56
25.17
7.245
7.96
23.12
15.550
17.08
24.14
9.762
10.72
31.01
5.112
5.62
16.73
7.502
8.24
42.0
14.799
16.26
37.34
24
0.03
1.14
91.029
24.7
5
二次草原(背の高い草原)
2.331
40.63
2.78
762
13.28
1.14
291
5.07
0.93
805
14.03
1.25
121
2.11
0.38
206
3.59
0.67
90
1.57
0.5
978
17.05
2.47
153
2.57
7.29
5.737
1.56
4
二次草原(背の低い草原)
1.083
18.24
1.29
1.480
24.92
2.21
447
7.53
1.43
744
12.53
1.15
304
5.12
0.97
1.479
27.9
4.84
55
0.94
0.31
337
5.67
0.85
9
0.15
0.43
5.939
1.61
3
農耕地(樹園地)
250
3.68
0.3

1.116

16.42
1.66
889
13.08
2.84
1.233
18.14
1.91
644
9.47
2.05
401
5.9
1.31
710
10.44
3.98
1.512
22.24
3.82
43
0.63
2.05
6.798
1.84
2
農耕地(水田・畑地)
17.417
22.64
20.74
13.888
18.05
20.69
10.403
13.52
33.2
11.863
15.42
18.42
5.087
6.61
16.16
5.851

7.6

19.15

2.515
3.27
14.08
9.279
12.06
23.41
642
0.83
30.6
76.945
20.88
1
市街地・造成地
914
6.16
1.09
1.769
11.92
2.64
3.538
23.84
11.29
3.064
20.65
4.76
2.491
16.78
7.91
769

5.18
2.52

442
2.98
2.47
1.671
11.26
4.22
183
1.23
8.72
14.841
4.03
小計
82.798
22.82
96.6
65.386
18.92
98.92
30.598
8.43
97.66
63.257
17.43
98.2
30.558
8.42
97.06
30.185
8.32
98.77
17.570
4.87
98.93
39.292
10.83
99.14
2.092
0.58
99.71
362.836
98.47
その他
1.178
20.91
1.4
728
12.92
1.08
733
13.01
2.34
1.159
20.57
1.8
924
16.4
2.94
375
6.66
1.23
191
3.39
1.07
340
6.03
0.83
6
0.11
0.29
5.634
1.53
83.976
22.79
67.114
18.21
31.331
8.5
64.416
17.48
31.482
8.54
30.560
8.29
17.861
4.85
39.632
10.76
2.096
0.57
368.470

100

 


●植生自然度区分をさらに大区分としたうえで第1回調査結果と比較すると、国士面積に
  占める森林全体の割合はほとんど変化がないものの(+0.2%)、自然林・二次林が減少
  (-3.9%)し、植林地が増加(+4.1%)している。
  また、農耕地が減少(-1.8%)している一方、市街地が増加(+1.5%)している(表
  2-2-4)。

表2-2-4 植生自然度の経年変化

植生自然度   第1回
自然環境保全基礎調査  
第2回・第3回
自然環境保全基礎調査  
増減
メッシュ数
構成比(%)
メッシュ数
構成比(%)
メッシュ数
構成比(%)
自然算原(自然度10)
3,260
0.9
4,038
1.1
778
0.2
森  林
(自然度9〜6)
244,994
68
248,538
68.2
3,544
0.2
自然林・二次林(自然渡9〜7)  
169,854
47.1
157,509
43.2
-12,345
-3.9
植林地(自然度6)  
75,140
20.9
91,029
25
15,889
4.1
二次草原(自然度5・4)
12,876
3.6
11,675
3.2
-1,200
-0.4
農耕地(自然度3・2)
83,030
23
77,412
21.2
-5,618
-1.8
市街地など(自然度2・1)(※1)
15,597
4.3
21,172
5.8
5,575
1.5
その他〔自然裸地 不明区分)
602
0.2
1,464
0.4
862
0.2
全  国(※2)
360,359
100
364,300
100
-
-
開放水域
0
-
4,170
-
-
-
全国
360,359
-
368,470
-
-
-

*1 市街地などには「緑の多い住宅地」(自然度2)を含むo
*2 開放水域を含まない。  
   第1回調査のデータに開放水域が含まれていなかったため、今回調査結果との比較に際しては、
   開放水域を除し全国土に対する構成比を算出し、その増減をみることとした。 従って、第2・
   3回調査にかかわる植生自然度の構成比は表2-2-3の全国の比率と異なっている。

●主要な群落の分布状況を把握するとともに、気候、地形、地質等の立地条件とのかかわ
  りについて分析した。 わが国の代表的な植生であるブナ林、照葉樹林についてその分布をみると、

  <ブナ林>

  ○日本海側型ブナ林は大面積に分布しているものの、分布域は山地部に限られ分断、限
   定されている
  ○太平洋側型ブナ林の分布域は、さらに山地帯上部に限定されている
  ○面的に広がりのある(3次メッシュ単位で優占する)主なブナ林の分布地域は図2-
    2-2のとおり

<照葉樹林>

  ○九州、沖縄では、比較的広範囲に分布するものの、ブナ林と比べると個々の群落は小
    さく、全国的にみても、離島や傾斜地などの人間が利用しづらい場所や社寺林などに
    残存するのみである
  ○面的に広がりのある主な照葉樹林の分布地域は図2-2-3のとおり

●自然公園等とのかかわり

 
全国の自然植生の29%が、自然公園等(国立公園、国定公園、都道府県立自然公園、原
 生自然環境保全地域、自然環境保全地域)に指定されている。
 寒帯・高山帯、亜寒帯・亜高山帯自然植生は49%が自然公園等に指定されているが、ブ
  ナクラス域自然植生では21%、ヤブツバキクラス域自然植生では27%となっている。