さて、調査結果は…。


10万人の協力によって得られた
貴重な調査結果。
皆さんから寄せられたデータの集大成です。

調査したメッシュは、全部で96,206メッシュ。
 右の図の赤い点は、皆さんが調査されたメッシュの一つひとつを示しています。つまり、70種の生きもののうち一つでも「いた」と報告のあったメッシュをすべてコンピュータで打ち出したものです。小さい点ですが約1キロメートル四方になっています。都市部は参加者が多かったこともあって、高い密度で調査されたことを示しています。これに対して、山地では点がまばらになっています。
 これを都道府県毎に数字で示したのが14ページの表です。全国の25パーセントが調査されたわけです。表にはでていませんが、もともとこの調査で調べようとした身近な地域(可住地)との比較では、77パーセントが調査されたことになります。
 ところで、26ページ以降の「生きもの地図」を見るときは、右の地図と見くらべて、次のことに注意しながら見て下さい。
  1. 右の地図の白いところは、誰も調べなかったか、調べても調査対象の生きものが見つからなかったメッシュです。
  2. 右の地図では赤くなっているのに「生きもの地図」で白い所は、調査されたが誰もその生きものを見かけなかったメッシュです。しかし、「生きもの地図」で白いからといって、必ずしもその生きものが「いない」ことを意味するものではありません。
  3. 右の地図で赤く塗りつぶされているところは、くまなく調べられたところです。参加者が集中したところとか、熱心な方がしらみつぶしに調べたことを示しています。
  4. 「生きもの地図」で緑に塗りつぶされたところは、その生きものが、あたかもたくさんいるような印象を受けますが、これは広い地域で見られたことを意味し、量が多いことを示すものではありません。
調査地域メッシュ図

都道府県別調査メッシュ数

都道府県名 総メッシュ数 調査メッシュ数 調査率(%)
北海道 85,115 8,269 9.7
青 森 10,411 1,882 18.1
岩 手 15,961 2,193 13.7
宮 城 7,854 2,064 26.3
秋 田 12,163 2,294 18.9
山 形 9,581 2,650 27.7
       
福 島 13,848 4,002 28.9
茨 城 6,087 2,729 44.8
栃 木 6,465 2,329 36.0
群 馬 6,468 1,836 28.4
埼 玉 3,853 2,556 66.3
       
千 葉 5,282 2,512 47.6
東 京 2,663 1,740 65.3
神奈川 2,578 1,931 74.9
新 潟 13,042 4,178 32.0
富 山 4,377 1,079 24.7
       
石 川 4,488 1,305 29.1
福 井 4,417 714 16.2
山 梨 4,492 1,136 25.3
長 野 13,548 3,856 28.5
岐 阜 10,598 2,574 24.3
       
静 岡 7,834 3,193 40.8
愛 知 5,272 3,068 58.2
三 重 6,075 2,121 34.9
滋 賀 3,541 1,420 40.1
京 都 4,781 1,594 33.3
       
大 阪 2,024 1,495 73.9
兵 庫 8,541 2,754 32.2
奈 良 3,712 1,014 27.3
和歌山 4,852 1,353 27.9
鳥 取 3,619 820 22.7
       
島 根 6,881 1,267 18.4
岡 山 7,190 2,347 32.6
広 島 8,730 2,294 26.3
山 口 6,582 1,721 26.1
徳 島 4,191 1,082 25.8
       
香 川 2,211 1,431 64.7
愛 媛 6,238 1,835 29.4
高 知 7,145 800 11.2
福 岡 5,108 2,443 47.8
佐 賀 2,525 657 26.0
       
長 崎 5,467 1,651 30.2
熊 本 7,507 1,639 21.8
大 分 6,394 1,969 30.8
宮 崎 7,545 1,162 15.4
鹿児島 9,809 1,468 15.0
沖 縄 2,859 619 21.7
       
全 国 380,172 96,206 25.3

学校ぐるみで参加した小学校
 「『北風に向かって伸びる強い子―自然を師とし友として―』をスローガンに教育活動を続けています。全校児童9名、教師3名、全員で参加します」昭和59年1月、こんなうれしい便りが寄せられました。ところが、この4月、この小学校は廃校になったことを聞きました。
 北海度虻田郡喜茂別町立栄小学校。鉱山の閉山や林業の不振で児童数が減少し続け、調査を始めた59年4月には児童数は6名になっていました。毎週土曜日の2時間目からは「緑の国勢調査」の時間で野外授業です。国道230号線沿いを歩いて中山峠までを調査範囲とし、何度も何度も繰り返し調べました。調査メッシュ数13。「調査を通じて自然の恵みを会得させることができたのではないでしょうか。調査の合い間に集めた山ブドウで作ったジュースを子供達とおいしく飲んだのが思い出になりました」とは元校長先生のお話です。60年4月。3名卒業、1名転校、入学者なし。とうとう児童は2名になってしまいました。栄小学校は75年の歴史に幕を閉じたのです。2人の児童は今はバス通学です。この夏、栄小学校の校庭のすみに、ヒメジョオンやアレチマツヨイグサに囲まれて「小鳥の食堂―さかえ―」という看板が立っています。厳しい冬に餌を採れずに死んでいく小鳥たちがいることを聞いた子供達が、自分達でトウモロコシやヒマワリを栽培し、給餌台をつくって冬の間小鳥たちに与えていたのだそうです。看板にはかわいい字で「食堂は11月からやります」とありました。
 あっという間に過ぎた一年でしたが、時は確実にうつりました。皆さんにも、それぞれにいろいろな変化があったことと思います。転勤したので新しい所の地図を、とか大学に合格したので、下宿先付近の地図をとかいう人もいました。卒業、就職、結婚、出産……。人間の方にはいろいろ変化はありましたが、あなたが調査したところの自然の様子はどうでしょう。あなたの見たキキョウやオミナエシは今年も変らず咲いているでしょうか。

いちばん身近な生きものは…。

身近な動物ベスト10
 40種の動物のなかから、報告メッシュ数の多いもの10種を選んだのが次のグラフです。
 1位から、スズメ、ツバメ、ミンミンゼミ、キジバト、ヒグラシの順になじみ深い動物が続きます。6位はアオダイショウです。ヘビを嫌がる人は多いのですが、アオダイショウもれっきとした身近な動物として上位にいることがはっきりしました。姿、形で嫌がってはかわいそうです。7位以下は、ドバト、ムクドリ、キリギリス、カブトムシの順です。水中にすむ動物は、すむところが限定されてしまうことや、水の中ということで、場所がら見つけにくかったのでしょうか。ベスト10には入りませんでした。


身近な植物ベスト10
 次は植物についてです。
 セイヨウタンポポ、ヒメジョオン、セイタカアワダチソウの順に外来種が上位を独占しています。4位にようやく日本に昔からあった在来タンポポがでて、5位ヒルガオと続きます。7位のヤブガラシも在来種といっていいでしょう。6位アレチマツヨイグサ、8位ハルシオン、9位ムラサキカタバミは外来種です。10位のオミナエシは万葉の植物で、上位に登場するのは意外な気もします。私たち日本人になじみ深い植物として、今も昔も変わらないということでしょう。
 こうしてみると、予想されたことではありますが、私たちの身のまわりには外来の植物が多いことがわかります。このグラフ、実際に調査したあなたの実感とくらべていかがでしょうか。全国集計のグラフですから、地域によっては多少のズレがあるかも知れません。


動物の確認メッシュ数

種  名 メッシュ数
サリガニ 8,621
アメリカザリガニ 16,716
ヤシガニ 160
サワガニ 21,956
ハッチョウトンボ 9,406
キリギリス/ハネナガキリギリス 31,882
タガメ 9,228
ヒグラシ 37,735
ミンミンゼミ 42,477
オオミノガ 16,248
オオムラサキ 5,499
ハンミョウ 12,895
カブトムシ 31,799
ゲンジボタル 11,660
ヤマメ 9,624
アユ 11,550
オイカワ 14,420
コイ 22,436
フナ 29,521
ドジョウ 29,161
 
種  名 メッシュ数
メダカ 21,356
カダヤシ 2,114
イモリ/シリケンイモリ 18,609
ヒキガエル 27,101
ウシガエル 17,174
カジカガエル 7,183
アオダイショウ 35,228
ドバト 34,068
キジバト 42,155
カッコウ 22,741
カワセミ 11,568
ヒバリ 29,652
ツバメ 50,479
オオヨシキリ 10,034
スズメ 58,862
ムクドリ 32,292
オナガ 14,236
オオコウモリ類 2,209
ノウサギ/ユキウサギ 23,389
ニホンリス/エゾリス 10,572
動物を確認したメッシュ 76,805

植物の確認メッシュ数

種  名 メッシュ数
在来タンポポ 38,389
セイヨウタンポポ 46,279
アカミタンポポ 7,604
ヒメジョオン 46,265
ヘラバヒメジョオン 15,764
ハルシオン 25,364
ヒルガオ・コヒルガオ 35,899
セイヨウヒルガオ 5,028
アレチマツヨイグサ 30,375
オオマツヨイグサ 18,647
コマツヨイグサ 8,663
センダングサ 13,809
タチアワユキセンダングサ 2,519
ミミナグサ 17,394
オランダミミナグサ 18,949
 
種  名 メッシュ数
セイタカアワダチソウ 40,200
オオブタクサ 12,555
アレチウリ 10,428
ヤブガラシ 29,530
ムラサキカタバミ 20,521
キキョウ 16,369
オミナエシ 20,425
テッポウユリ 6,881
ニリンソウ 11,433
チゴユリ 15,859
カタクリ 12,067
ホテイアオイ 4,103
エビモ 3,216
タヌキモ類 2,098
コウホネ類 3,516
植物を確認したメッシュ 75,760

英国の生物記録センター

 生物記録センター(Biological Records Centre:BRC)は1964年、国立陸上生態学研究所の一部門としてモンクスウッド研究所内に設けられました。常勤スタッフは5名です。
 センターでは、英国在住の数千人の自然愛好家の協力により、数少ない専門の研究者だけではとうてい集めることのできない動植物に関するぼう大な情報を収集します。集める情報は、ある種が、いつ、どこで見られたか、数は多いか少ないか、というような簡単なものです。協力活動はもちろん無償です。センターでは、自然愛好家から寄せられる情報を集成して、次のような仕事をしています。
  1. 生態学、生物地理学的研究の基礎となる動植物分布図(10キロメートルメッシュ)の作成と公表。
  2. データバンクとして、自然愛好家に対し、分布図等集成された情報の提供。
  3. 野生生物の保護管理に活用するため、稀少種、絶滅に瀕している種の把握。
 動植物に関する情報は、専門の研究者や熱心な自然愛好家によって個人や地域レベルではいろいろ集められていますが、それらを統合し、全国的な観点から見るということは行われにくいものです。BRCのような機関の存在によって利用が限定されていた各種調査結果や、公開の機会が限られていた個人の観察記録が見事に蘇生し、統合されて、その統合されたものが、今度は情報提供者に返され、一層の調査研究が進められるという循環が繰り返されているのです。
 派手ではありませんが、センターの活動により動植物の管理に必要なデータが確実に蓄積され、必要な場合にはいつでも提供することができます。“英国病”などといわれますが、こんなところにも“先進国英国”を感じます。

一つの点が、10km四方をしめしています。

1キロメートルメッシュで表示されています。
 今回の調査は、はじめから終わりまですべて地域メッシュを用いて作業を進めました。地域メッシュは、地球の緯度と経度をもとに、東西・南北の線で区切られた四角い区画です。下の図のように一番大きい、粗い区画が一次メッシュです。次が一次メッシュをタテ・ヨコ8等分した二次メッシュ。そしてさらにそれをタテ・ヨコ10等分したのが三次メッシュ(基準地域メッシュ)、約1キロメートル四方の区画です。調査票に記入して下さった8ケタの数字は、この一次、二次、三次のそれぞれの区画の位置を表わす大切な番号です。
 地域メッシュは、面積がほぼ均一化されるのでメッシュ相互間の比較が容易であること、地域が固定しているので経年比較が容易であること、大量の情報処理が可能であることなどの利点があります。また、すでに、植生、土地利用、人口密度など国土のさまざまな情報が地域メッシュ単位で整備されていますので、それらと重ねあわせて見ることもできます。
 「生きもの地図」は、全国96,206メッシュについて、生きものごとに「見た」という報告があったかどうかをコンピュータで処理しました。したがって、一つの点は、一人だけの報告の場合もありますし、複数重なっている場合もあります。また、もともとあなたがメッシュ内で同じ生きものをいくつ見つけても「○」は一つしかつけなかったわけですから、「生きもの地図」は、生きものの数は表わせません。


    「生きもの地図」を拡大すると、一つひとつの点がこんなふうに並んでいます。
    一つの点が、1メッシュです。
見分けの難しい生きものもありました。
 調査対象とした70種の動植物は、専門の先生方のご意見もいただき、見分けやすさも考えながら選んだものでした。しかし、「調査のてびき」で十分な説明ができなかったこともあって、実際には、見分けるのがかなり難しいものがあったようです。
 できあがった「生きもの地図」のなかには、疑問の残るものもありました。「生きもの地図」を前に、先生方と何日もかけて1枚1枚議論しました。その結果、いくつかの反省点がでてきました。
  1. オオミノガと他のミノガとの区別は、かなり難しかった。
  2. ヤマメとアマゴの区別は専門家でも難しいことを考慮すべきであった。
  3. マツヨイグサ類は、3種類調べようとしたが、生育環境により形態がかなり変化するので3種類の区別は難しかった。
  4. タチアワユキセンダングサは、帰化植物として新しすぎて、図鑑にもでていない難物であった。
  5. 若いアメリカザリガニは、ザリガニとよく似ている。
確認を要するデータも含まれています。
 全国から寄せられた190万のデータをコンピュータで処理し地図に打ち出してみると、海の上にもいくつか緑の点がおちました。データのパンチミスも考えられますが、中にはメッシュコードを書き間違えた人もいたようです。海におちた場合は、はっきり書き間違いとわかりますが、陸上の場合の書き間違いをチェックするのは困難です。地図に打ち出された点の中には、メッシュコードを書き間違えたものも含まれています。
 また、これまでの研究では「いない」とされていた島や、分布の南限、北限といわれている地域以外にも点が打ち出されたものもありました。新しい発見かも知れませんし、最近分布が広がったのかも知れません。あるいは、見分け方の難しい生きものもあったことから間違えて別のものを調査対象の生きものとして報告したのかも知れません。「生きもの地図」に「確認が必要」などとしているのはこういう場合です。ただし、確認はなかなかやっかいです。生きものを見つければ「いる」ということは証明できますが、「いない」ことの証明はほとんど不可能です。
 今後、「生きもの地図」をよりよくしていくためには、参加者が自信を持って確認できたものや、先生やもの知りの人に確かめてもらったものだけを報告していただくことが大切だということを改めて感じます。

「身近な生きもの調査」は、これからも続きます。
 調査の結果については、気付いた点もいくつかありましたが、全国からの参加でこのような「生きもの地図」がつくられたことは画期的なことです。なにしろ、大ぜいの人ですから多少のミスが含まれているのは当然ともいえます。この「生きもの地図」は小さなミスにとらわれないで大きな眼で全体を眺めて下さい。なお、身の回りの様子を詳しく知りたい方には、皆さんがお使いになったメッシュ地形図の単位で「生きもの地図」の打ち出しサービス(有料)を行います。
 「生きもの地図」は地図ページのコメントにもあるように、このままでもいろんなことがわかりますが、植生、土地利用、人口密度などメッシュ化された様々な情報と重ね合わせることによって、いろいろな角度から分析することができます。私達は今後こうした作業を続けて「生きもの地図」を最大限活用したいと考えています。
 さて、「身近な生きもの調査」は終わったのではありません。始まったばかりです。今回の経験や皆さんから寄せられたご意見を踏まえて一層の工夫をこらし、次回の緑の国勢調査においても同様の調査を実施する予定です。それまで、生きものを見る眼に一層のみがきをかけておいて下さい。今回よりもっと立派な「生ききもの地図」を作りましょう。


こんなグループがありました● ――平塚市博物館(神奈川県)――

 今回の調査に、グループで参加くださった方もたくさんいました。それぞれ工夫をこらして調査を進めてくださいました。
 平塚市博物館を中心とするグループもその一つです。博物館には以前から、「みんなで調べてみよう」という行事があり、目的や方法が緑の国勢調査と共通した点も多いので、グループで参加したそうです。もちろんそれぞれの参加者はごく一般の方々です。
 博物館では、調査結果を独自にまとめて、小冊子を発行しました。そのなかには、個人、グループを問わず、参考になることがらがいくつかありました。緑の国勢調査は終っても、各地で自然観察を続けている方も多いでしょう。また、調査でなくても、季節ごとに自然を見直すことはとても大切なことです。ここに紹介する平塚の例も参考にして、これからもぜひ、身近な自然を見つめつづけてください。
担当するメッシュを決めた。
 調査は、それぞれの参加者が1〜数メッシュを担当する「分担制」としました。自分の地域が決まっている方が、それだけ注意深く観察できるでしょう。
 あまり欲ばらずに、限られたところをじっくり見るのも一つの方法です。
同じメッシュを何回か調べた。
 各自の担当メッシュが決まっているので、それぞれの調査者は、そのメッシュ内を何回か調べることかできました。
 自然観察の大切なポイントの一つに、「繰り返し観察する」ということがあります。最初は気づかなかったことも、二度目には確認できたり、季節ごとの変化もわかります。“去年調査したとき以来、歩いたことがない”という人がいたら、ぜひもう一度足を運んでください。
自然のようすを記録した。
 緑の国勢調査では、調査対象の動植物のうち見つけたものだけ報告していただきましたが、平塚の場合は、調査者のみなさんが、担当したメッシュの緑の量や開発の程度など、“自然のようす”を記録しています。
 ある地域について、このような記録が何年かにわたって集められるだけでも貴重なデータになります。いまからでも遅くありません。調査したときの印象をメモにまとめておいて、またいつか、じっくり自然をみつめてはいかがでしょう。

 

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