V−3 分布要因の解析

 本年度事業は先にも述べたように情報処理作業を中心に行ない,調査結果に対する考察は全国分布図及び既存の知見をもとに行なったのみである。

 しかが各県の動物分布調査報告書には動物の分布に関する要因が数多く指摘されており,一部は本報告書でも紹介した。しかしこれら関連要因の指摘も県担当者,調査担当者の推測が多く,正確な要因分析を行なっている例は少ない。ただ各県には鳥獣に関する情報(例えば農薬使用量,捕獲頭数,増加減少傾向等)が伝聞情報としてであるが入ってきており,このことは今後の要因解析にあたっての大きな手掛りになると思われる。

 今後行なうべき要因解析フローを図27に示す。

 <解析準備作業>

 解析の前段階作業としては既存資料の収集,整理,既存MTの選別,哺乳類情報MTの再編集があげられる。

 特に既存資料の収集と整理は分布要因解析には不可欠の作業である。

 全国規模での分布要因解析が行なわれていないまでも地域レベルでは既にいくつかの関連要因が指摘されている。これらの資料を数多く収集し,構造的に組み立てることによってはじめて要因解析の構造化も可能となる。

 収集資料としては哺乳類の分布・生態等の自然関連資料はもちろんのこと,先の県の報告書で指摘されたように開発動向,放獣関連,林業関連資料等の社会関連資料があげられる。

 <集計解析の方向性>

 集計解析によって明らかにすべき事は第1に分布の現況である。昭和54年度は1/250万分布メッシュ図(メッシュ単位約5km×4km)をもとに分布現況の把握を試みたが,今後の集計解析にあたっては更に小さい単位での集計が必要であろうc県の報告書でも指摘されているが,キツネ,タヌキ,アナグマ等の中型哺乳類の分布に関しては5km×4kmメッシュでは一面の分布として表示されているが実際の分布はモザイク状であると考えられる。

 第2に明らかにすべき事は分布域の変動である。今回は県の報告書をもとに増減傾向を指摘したにとどめたが実際には出現年代,絶滅年代を調査しており,これらの項目を年代順に集計し解析することにより,分布域の変動傾向およびその要因を明らかにすることが可能であろう。

図27 集計および分布要因解祈フローチャート

 第3には分布様式の解明があげられる。本報告書でも述べたように今回の調査で対象種の分布様式が種によって大きく異なっていることがわかった。これがどのような要因によって規定されているか明らかにする必要があるであろう。解明された要因は,単に現在の哺乳類の分布を規定しているというだけでなく,今後それらの要因の哺乳類各種に与える影響が予測可能となり保護管理上適切な措置がとり得るものである。

 第4に解明すべき点は分布構造である。今回の調査では群れの有無,子連れの有無,一時的出現等分布構造を解明するための質問を行った。調査結果をみるとニホンザルにおける群れ生息区画と少数個体出現区画,ニホンジカにおける周年生息区画と一時的季節的出現区画の関係等これまで実態がわからなかった分布構造上の事実を明らかにすることができた。これらの情報を集計・解析することにより各種の分布構造を解明することが可能であろう。そしてこのことは,今後展開されるであろう個体数推定,個体群の齢構成の解明,栄養判定等とともに野生動物の保護管理にとって極めて有効な資料となり得るのである。

 

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