4−4 海域生物調査

 

1.調査の目的と方法

(1)目的

今後とも汚濁や生物相の変化が進行すると思われる我が国の海岸域において、生息状況及び生息環境の変化を継続的に監視していくため、都道府県ごとに調査地区を設定し、潮上帯(飛沫帯)及び潮間帯に生息する生物を調査した。

(2)調査の内容と方法

ア 調査地区の設定

調査地区は、各都道府県ごとに、次の諸点を考慮して、2か所以上(北海道10か所)選定した。(図4−4−1

・今後、引き続き調査ができるような場所。

・2つの調査地区は、地理的に離れていること。

・2つの調査地区は、海岸域の形態や、生物相の違い等を勘案して、タイプの異なるものであること。

イ 調査時期及び調査回数

現地調査は、各都道府県が、各調査地区において春(主として4月)夏(主として9月)の年2回実施した。また調査時の潮は大潮の干潮時である。

ウ 調査方法

調査は、各調査地区ごとに、次に述べる手順で実施された。

1 岩盤の様子、砂の粒子の大きさ等を観察し記録した。

2 海岸を歩き、できる限り広い範囲を観察し、目に触れた生物を記録した。

3 潮上帯最上部に調査基点を設け、その点から海側に向って汀線直角に横断を設定するとともに、横断面略図を作成した。

4 横断線の周辺において、潮上帯、高潮帯、中潮帯、低潮帯の潮位帯別にでき

る限り同一条件の典形的な場所を選び、方形枠を置いた。

5 それぞれの方形枠において、生物の観察、採集を行ったが、その仕方は、海岸域の形態(磯浜、軽石浜、砂泥浜)によって異なる方法でおこなった。(調査要領参照)

(3)情報処理の内容と方法

ア 情報処理手順

情報処理は、以下のような手順で行った。

1 各調査地区における、出現した個々の種について、各帯状構造別(潮上帯、高潮帯、中潮帯、低潮帯)における個体数(N/m2)、湿重量(g/m2)を集計した。

2 各帯別に、植物、動物群別の湿重量(g/m2)を集計する。

3 以上の集計結果と、基礎データを基に、各潮位帯における個々の種の優占度

を3区分した。

・相観的に、顕著な優占種

・相観的に、優占していると考えられる種。

・生息種

イ.とりまとめ

1 帯状構造の把握

上記の作業で得られた結果を基に、垂直分布図を作成し、各調査地区における帯状構造を把握する。

2 分布区系間の生物相の比較

海岸生物の分布が、地理的に違う原因としては、寒流、暖流の影響が大きいとされている。そこで内海(1965)が、沿岸性蔓脚類を基にして設けた分布区系(表4−4−1)を、各調査地区にあてはめ、生物相の比較を試みた。

ここで設定された分布区系と、海域調査全体を通して用いた海区・海域区分とは、若干の位置的な違いはあるが、ほぼ表4−4−2の対応となっている。

 

2.海域生物の水平分布

 調査の結果把握された動植物群のうち主要なものの水平分布状況を以下に示す(図4−4−2及び図4−4−3)。

(1)タマキビ類について

今回の調査では、全国で13種類のタマキビ類が確認されている。その中で、タマキビが特に広範囲に分布しており、全国各地の調査地区でみられる。本種は外海から内湾に至る海域に生息しており、環境に対する適応範囲の広さを示している。

クロタマキビは、寒帯性生物で、北海道沿岸及び三陸海岸中部付近を南限とした太平洋側に分布しており、本州日本海側ではみられない。本種は、親潮海流、リマン海流などの寒流域に分布していることがわかる。なお、本州日本海側に本種が見られなかったことについては、本州太平洋側と比較して両海域の夏季と冬季の水温分布の相違、水温の季節変化とそれを引き起こす海流の影響が、地理的分布を大きく左右していることが推測される。

アラレタマキビは、北海道南端付近に北限とし、以南には広く分布している。また、本種は、外海から内湾に至る海域に生息しており、環境に対する適応範囲の広さを示している。なお、本種は、亜寒帯区において、ほとんどみられないことから、温帯性生物ではないかと思われる。

イボタマキビは、伊豆諸島中部付近から、紀伊半島南岸、九州南岸を結ぶ線に北限がみられる。また、本種は、黒潮の影響を受ける海域に限られ、熱帯性の傾向があるように考えられる。なお、熱帯性のタマキビ類として、コンペイトウガイがある。これは、今回沖縄県の海域に限り出現している。

(2)フジツボ類

今回の調査では、全国で13種類のフジツボ類が確認されている。その中で、イワフジツボが、本邦海域に広くみられる。また、外海から内湾に至る海域に広く分布しており、本種の環境に対する適応範囲の広さを示している。

チシマフジツボは、寒帯性生物で北海道沿岸及び犬吠崎を南限とした太平洋側に分布しており、寒流の影響する海域に限り生息している。特に、犬吠崎において本種がみられることは、親潮の強い南下流によるものと思われる。本州日本海側で本種がみられないことは、クロタマビキで述べたと同様の理由によると思われる。

クロフジツボは、北海道松前半島付近の海域を北限として、以南に広い分布を示す。本種は、中内湾性で比較的湾内においても確認されている。

シロスジフジツボは、常磐付近の海域と、天草諸島付近を結ぶ線に北限があると思われ、今回の調査では、日本海側での生息は、確認されなかった。また、本種は、強内湾性であり、内湾域に限り確認されている。

(3)コンブ科

今回の調査では、全国で12種類のコンブ科の種が確認されており、うちコンブ属5種、カジメ属7種である。

コンブ属は、北海道沿岸に限り分布を示しており、寒帯的傾向が強く示されている。また、カジメ属ワカメは、北海道雄冬岬と室蘭を結ぶ線を北限、伊豆半島付近と長崎佐世保を結ぶ線を南限として、その間の、太平洋側、日本海側、瀬戸内海の広い地域に分布している。分布状況から、温帯的傾向を示している。

(4)ホンダワラ科

ホンダワラ科は、今回の調査で25種類確認され、特にウミトラノオは、広い分布を示し、全国各地の調査地区で見られる。本種は、比較的湾内においても確認されている。

亜寒帯区では寒帯性ホンダワラ科ウガノモク、ネブトモクなどが生息している。

ヒジキは、北海道松前半島以南から、太平洋沿岸各地区、山口県北長門海岸以南の日本海側に見られる。また、松前半島以南から北長門海岸以北の日本海側には、今回の調査ではみられない。

本州から九州にかけての日本海側は、ホンダワラ科に属する種が多く、北海道以南の日本海側が、温帯的であることを示唆するものである。

テングサ科は、今回の調査で7種類確認されている。一般に本科は、寒帯域には生息しておらず、今回の調査でも、同様な傾向をみせている。マクサ、オバクサは、今回の調査で最も北方に分布しており、三陸海岸中部と、秋田県能代を結ぶ線が北限でそれ以北では、本科はみられない。

ヒメテングサは、鹿島灘から山口県東部付近を結ぶ線に北限がみられ、内湾、外海問わず生息している。本種は、温帯性を呈していると考えられる。

シマテングサは、今回の調査で沖縄県海域に限り出現している。本種は、表日本

南部にもみられるとされており、分布状況から熱帯的傾向の種であることが考えら

る。

 

3.分布区系別、海域生物出現状況(代表種)

(1)北海道東北亜区

タマキビ類では、クロタマキビ、エゾタマキビ、フジツボ類では、チシマフジツボなどの寒帯性生物が出現している。植物相では、寒帯性のコンブ属が生息している。しかし、オホーツク沿岸では、今回の調査でコンブがみられない。このことは、今回の調査だけでは、原因がわからず今後の検討を要する。

以上、本亜区の生物相は、寒帯性生物が多くみられ、温帯性生物の出現は確認されない。このことは、本亜区が寒流による影響が強く、暖流の影響がほとんどないことを示唆するものである。

(2)北海道東南亜区

本亜区は、北海道東北亜区と生物相が似ており、寒帯的傾向を示すが、温帯性生物のクロフジツボ、ワカメ、ヒジキなどがみられる。このことは、暖流による影響を示唆するものであり、前亜区と比較して寒帯性の傾向は弱いと考えられる。

(3)羽越亜区

本亜区は、生物相が貧弱である。タマキビ類では、タマキビ、アラレタマビキ、フジツボ類では、イワフジツボ、クロフジツボが確認されたにすぎない。海藻類では、ホンダワラ科が比較的多くみられる。その他に、ワカメ、ツルアラメ、テングサ類なども確認されている。

以上、本亜区の生物相から、温帯的傾向にあると思われる。

(4)北陸、山陰亜区

羽越亜区と同様な生物相を示す。

(5)朝鮮海峡亜区

本亜区は、本州日本海側の2亜区とほぼ同様な生物相を示している。しかし、ヒメテングサの出現などから、温帯的傾向が増していると思われる。

(6)瀬戸内海亜区

本亜区に出現するタマキビ類は、タマキビ、アラレタマキビが主で、その他では、ヒメウズラタマキビ、ウズラタマキビなどが確認される。フジツボ類では、イワフジツボなど内湾性のものが多くみられる。また、ワカメ、ヒメテングサなどの、出現もみられる。

以上、本亜区に出現する生物相から本亜区が、外海水の流入がなく閉鎖的環境にあり、温帯性であることが察せられる。

(7)三陸亜区

本亜区では、温帯性生物(クロフジツボ、オバクサ、ヒジキ)と、寒帯性生物(クロタマキビ、エゾノネジモク)が出現している。このことは、黒潮、親潮の両方の影響を受けるためで温帯的要素と、寒帯的要素の両方を持ち合わせていると考えられる。

(8)常盤亜区

本亜区は、三陸亜区とほぼ同様な生物相を呈している。ヒジキ、アラメは、本亜区において群落を形成しており、黒潮による影警がうかがわれる。一方、チシマフジツボの出現は、親潮による影響と思われる。

本亜区以南の太平洋側では、寒帯性生物がみられなくなり、親潮の影響を受ける最南端の海域であると考えられる。

(9)東海亜区

本亜区では、寒帯性生物がみられなくなり、温帯性生物の出現が多くなる。特に八丈島海域では、イボタマキビ、ミナミクロフジツボなどの出現により、熱帯的傾向を示している。

本州沿岸では、熱帯性生物の出現はほとんどみられないが、テングサ科が多くなり、三陸、常盤亜区の生物相と異なっている。

(10)南海亜区

本亜区における生物相は、イボタマキビ、コビトウラウズの出現、テングサ科の増加など熱帯的傾向を示しており、ワカメがみられなくなったこともそれを示唆している。

(11)西北州亜区

南海亜区と比較して、生物相は貧弱であり、本州日本海側の生物相と似ている。しかし、ワカメがみられなくなったこと、イボタマキビ、オオイワフジツボの出現等が、本亜区の熱帯的傾向を示している。

(12)琉球亜区

本亜区では、造礁サンゴ、コンペイトウガイ、シマテングサなど、本土ではみられない熱帯性生物がみられる。また、本土の亜熱帯域で出現している、イボタマキビの生息もみられる。これらの種の出現は、熱帯的傾向を強く示している。

 

4.代表海域(区)別帯状構造及び海域生物状況の特徴

(1)石狩湾(石狩海域)

・調査地区No.9カブト岩 内湾−開放海岸−磯浜

本調査地区の帯状構造は、上位帯から下位帯へ、イワフジツボ群→タマキビ、イワフジツボ群→ムラサキインコ、エゾヒトエグサ、ウスバアオノリ群→ムラサ、キインコ、ピリヒバ群となっている。

また、生物出現状況は、クロタマキビ、コウダカチャイロタマキビ、エゾヒトエグサなど寒帯性生物と、ワカメなどの温帯性生物などみられる。

以上のことから、暖流と寒流の両方の影響を受けていることがわかる。また、本調査地区は、内湾域であるにもかかわらず、内湾種の著しい群がみられなかったことは、石狩湾が開口性湾であり外海水の流入が多いという特性のためと考えられる。

(2)室蘭海域(胆振海域)

・調査地区No.6チャラツナイ 内湾−開放海岸−磯浜

本調査地区の帯状構造は、上位帯から下位帯へ、タマキビ、クロタマキビ群→イワフジツボ、チシマフジツボ、ピリヒバ群→フジマツモ、スガモ群→ミツイシコンブ、エゾツノマタ群となっている。

海域生物出現状況は、寒帯性生物(クロタマキビ、チシマフジツボ、フジマツモ、ミツイシコンブ)と、温帯性生物(ワカメ)がみられる。このことは、本調査地区が、寒流、暖流両方の影響を受けていることを示している。

(3)陸奥湾

・調査地区No.12中野沢海岸 内湾−開放海岸−砂泥浜

本調査地区の帯状構造は、上位帯から下位帯へ、ハマダンゴムシ群→コタマガイ、ヒメスナホリムシとなっており不明瞭である。

(4)秋田海域

・調査地区No.17ンド鼻 外海−保護海岸−磯浜

本調査地区における帯状構造は、上位帯から下位帯へ、アラレタマキビ群→モクズヨコエビ、ツヤナシオグサ、ベッコウザラ群→イソモク群となっている。なお、帯状構造は明瞭でない。これは、日本海側全域において共通することで、潮位差が少ないためと思われる。

海域生物出現状況では、ホンダワラ類など、温帯性生物がみられ、対馬暖流による影響があると考えられる。

(5)富山湾

・調査地区No.36灘浦海岸 内湾−包囲海岸−転石浜

本海域は、潮位差が小さいため、富山県の報告書は、潮位帯を潮間帯、漸深帯に2分割している。そのため、帯状構造は不明瞭である。

潮間帯付近は、チビカニモリ、モツボ類、コオロギガイが優占しており、以下漸深帯では、温帯性ホンダワラ類の藻場を形成している。

モツボ類、コオロギガイ、温帯性ホンダワラ類など温帯性生物がみられ、本調査地区は温帯域にあるといえる。

・調査地区No.37岩瀬海岸 内湾−開放海岸−砂泥浜

本調査地区は、潮間帯にヒメスナホリムシ、ヒメハマトビムシsp、サシバゴカイ、ヒメカノコアサリ、漸深帯に、Pseudopolydora Kempi、ヒメカノコアサリ、マテガイなどが優占している。Pseudopolydora属は、有機汚染域に多い種とされており、P.Kempiの存在は本海域における汚染の進行を示すものであろう。

(6)若狭湾

・調査地区50小田宿野浜 内湾−包囲海岸−砂泥浜

   〃 51由良浜   内湾−開放海岸−砂泥浜

両調査地区は、地理的に近く、両調査地区とも帯状構造は不明瞭で、全潮位帯においてLycastospsis augeneri(多毛類)が単独で優占している。

一般に多毛類は、汚染が進行すると、優占度の増加が認められるが、現状のデータだけで断言することはできない。今後、本種に着目し継続的な調査が望まれる。

(7)鳥取海域

・調査地区No.59小鴨ケ磯 外海−保護海岸−磯浜

本調査地区における帯状構造は、上位帯から下位帯ヘアラレタマキビ群→イソムラサキ、ピリヒバ、ユナ群→ムラサキイガイ、ピリヒバ群→イソムラサキ、ピリヒバ、ユナ、シダモク、マメダワラ群となっており、帯状構造は、不明瞭である。これは潮位差が小さいためと思われる。

(8)博多湾

・調査地区No.81今律 内湾−保護海岸−砂泥

本調査地区における帯状構造は、上位帯から下位帯へ、ヒメハマトビムシ群→アサリ群→アサリ、ウミトラノオ、アナアオサ群となっている。アナアオサが優占していることは、海水の富栄養化傾向を示していると思われる。

また、アサリ、イソゴカイ、ギボシイソメの出現は、内湾性の特徴を示しているものと思われる。

(9)三陸海岸

・調査地区No.14越喜来湾崎浜 内湾−保護海岸−磯浜

本調査地区の帯状構造は、上位帯から下位帯へ、イワフジツボ群→タマキビ、イワフジツボ→ムラサキインコ、エビヒトエグサ、ウスバアオノリ群→ムラサキインコ、ピリヒバ群となっている。

海域生物出現状況から、寒帯性生物(エゾヒトエグサ、エゾノネジモク)と温帯性生物(ヒジキ)が出現している。このことは、親潮、黒潮など、双方の影警を示唆するものである。

(10)仙台湾

・調査地区No.15メカル崎 内湾−保護海岸−磯浜

本調査地区の帯状構造は、上位帯から下位帯へ、アラレタマキビ群→コガモガイ、イワフジツボ群→イワフジツボ、コガモガイ、ネバリモ群→マツカゼ、ツブラホコムシ群となっている。

コガモガイは、内湾性の種で本調査地区における特徴を示す。また、マツカゼは、本州中部以南線下に分布していると、吉良(1956)に記載されており、本種が、本調査地区に出現したことにより、温帯的傾向にあると考えられる。

(11)東京湾

・調査地区No.30三枚州 内湾−保護海岸−砂泥浜

本調査地区の帯状構造は、全く不明瞭で潮上帯から高潮帯は無生物帯である。中潮帯から低潮帯にかけて、シオフキガイ、アサリ、多毛類と汚染に強い内湾性の種が多く、本調査地区付近の海域が、汚染されていることを示唆するものである。

・調査地区No.32旗山崎 内湾−開放海岸−磯浜、転石浜

本調査地区の帯状構造は、上位帯から下位帯へ、タマキビ群→イワフジツボ、ボタンアオサ群→ムラサキイガイ、アカフジツボ群→クダオソコエビ、オキツノリ、フダラク群となっている。

アカフジツボ、クダオソコエビは、弱内湾性の指標種で、本調査地区が湾口部に位置し、外海水の流入があることを示唆している。また、生物相は、温帯性の種が多くみられる。なお、ボタンアオサ群は、本調査区付近の海域の富栄養化傾向を示しているかもしれない。

(12)相模湾

・No.33昆沙門 内湾−保護海岸−磯浜、転石

本調査地区における帯状構造は、上位帯から下位帯へ、ウミニナ群→イソニナ、カギメリタヨコエビ、アラムシロガイ、ボタンアオサ群→ピリヒバ群→カギメリタヨコエビ、ピリヒバ、ヒジキ群となっている。

生物相をみると、温帯性生物(ヒジキ、ワカメ、アラメ)が多く生息している。このことは、本調査区付近の海域が温帯域にあることを示唆している。また、ボタンアオサが群落を形成しているが、付近の海域の富栄養化傾向を示している可能性がある。

(13)遠州灘

・調査地No.43御前崎海岸 外海−開放海岸−磯浜

本調査地区は、潮上帯から高潮帯にかけて砂浜で、わずかにヒメスナホリムシが確認されるだけである。以下の潮位帯は、磯浜でタマキビ群→ツブラホコムシ群、ボタンアオサ、ヨロイイソギンチャク群という帯状構造になっている。

また、ケヤリの生息がみられるが、本種は、熱帯的傾向があり、黒潮暖流による影響と思われる。なお、ボタンアオサ群が多くみられるが、海水の富栄養化傾向を表しているのかもしれない。

(14)伊勢湾

・調査地区No.45小佐海岸 内湾−開放海岸−磯浜

本調査地区は、湾の中部に位置している。帯状溝造は、上位帯から下位帯へ、アラレタマキビ、イワフジツボ群→イワフジツボ、ヨロイイソギンチャク、クロイソカイメン、イシゲ群→アナアオサ、ヒジキ群となっている。

ヒジキ、イシゲは、汚染に弱い種で優占種として出現している。このことは、本調査地区付近の海域に、外海水の流入が多いことを示している。しかし、一方でアナアオサ群の出現は、富栄養化傾向を示すもので、今後の変化が注目される。

・調査地区No.46竹島海岸 内湾−保護海岸−砂泥浜

本調査地区は、湾奥に位置している。帯状構造は明瞭でなく、高潮帯から低潮帯にかけてアナアオサ群が発生しており、低潮帯にホトトギスガイ群がみられる。

アナアオサ群の発達が著しいことは、付近の海域が富栄養化傾向にあることを示しているように思われる。

(15)瀬戸内海(区)

・調査地区No.52長崎 内湾−開放海岸−転石浜

本調査地区は、大阪湾内にある。帯状構造は、上位帯から下位帯へ、タマキビ群→イワフジツボ群→ヨコエビ類、クロレクロズケガイ、ヒライソガニ群→ニッポンモバヨコエビ、アナアオサ、ナガアオサ群となっている。

アオサ類が、低潮帯付近に卓越しているが、富栄養化傾向を示しているのではないかと思われる。

・調査地区No.55 コブトコロ 内湾−開放海岸−磯浜

本調査地区は、播磨灘にある。帯状構造は、上位帯から下位帯ヘアラレタマキビ、タマキビ、カメノテ群→クログチ、イワフジツボ、アナアオサ群→イボニシ、夕テジマイソギンチャク、ヤッコカンザシ、アナアオサ群→ヤッコカンザシ、アナアオサ群となっている。

本調査では、アナアオサ、ヤッコカンザシ群が発達しており、付近の海域の富栄養化傾向を示していると思われる。

・調査地区No.74浦生 内湾−開放海岸−砂泥浜

本調査地区は、備讃瀬戸海域にある。帯状構造は、上位帯から下位帯へ、アラレタマキビ、タマキビ群→イワフジツボ群→イワフジツボ、ムラサキガイ、アナアオサ、ウスバアオノリ群となっている。

ムラサキイガイ、アナアオサ群が発達していることは、付近の海域の富栄養化傾向を示しているものと思われる。

・調査地区No.68仙酔島大浦 内湾−開放海岸−砂泥浜

本調査地区は、備後灘にある。帯状構造は、上位帯から下位帯へ、ハマダンゴムシ群→ヒメスナホリムシ群→アナアオサ群となっている。

アナアオサ群が特に発達しており、海水の富栄養化傾向を示唆しているものと思われる。

・調査地区No.76大串 内湾−保護海岸−転石、砂泥浜

本調査地区は、伊予灘にある。帯状構造は、夕マキビ群→フツウゴカイ、ヒトエグサ群→クロホシムシ群となっている。

生物相をみると、多毛類が非常に卓越しており、富栄養化傾向を示しているものと考えられる。

以上、瀬戸内海におけるいずれの調査地区でも、アオサ類、多毛類の群落、群集が多くみられる。これにより、瀬戸内海全域において、富栄養化が進行していると考えられる。また、温帯性、内湾性生物が多くみられ、瀬戸内海域における生物相の特徴をあらわしている。

(16)土佐湾

・調査地区No.78浦の内湾 内湾−包囲海岸−磯浜

本調査地区は、ほぼ湾奥に位置している。帯状構造は、上位帯から下位帯へ、イワフジツボ群→マガキ、ヒトエグサ群→タテジマフジツボ、ウズマキゴカイSP.群→キイロスナイソギンチャク、サンカクフジツボ、マメダワラ群となっている。

生物出現状況からみると、シロスジフジツボ、タテジマフジツボは、強内湾性で本調地区の特徴を示す生物である。

・調査地区No.79王無浜 内湾−開放海岸−磯浜

本調査地区は、ほぼ湾口に位置している。帯状構造は、上位帯から下位帯へ、アラレタマキビ、イワフジツボ群→クロフジツボ群→クジャクガイ群→イソモク、ネジモク、クロメ群となっている。

生物相をみると、熱帯、温帯生物(クジャクガイ、イソモク、クロメ)が多く確認される。これは、黒潮暖流の影響によるものと考えられる。

(17)有明海

・調査地区No.82大授搦 内湾−開放海岸−砂泥浜

本調査区の帯状構造は、不明瞭である。特に優占している種は、アゲマキガイ、ゴマフダマガイ、テリザクラガイと思われるが、はっきりした群集はみられない。

なお、今回採集されなかった、ムツゴロウ、ワラスボなどもみられ、両種とも有明海における特産種として有名である。

(18)鹿児島湾

・調査地区No.91桜島袴腰大正溶岩

本調査地は、潮上帯が無生物帯である。帯状構造は上位帯から下位帯へ、コビトウラウズ、クログチガイ、イワフジツボ群、アナアオサ、コケモドキ群→ヒバリガイモドキ、シロスジフジツボ、アナアオサ群となっている。

なお、中潮帯から低潮帯にかけてアナアオサが多く、海水の富栄養化を示唆しているものと思われる。また、棘皮動物(ムラサキウニ、ナガウニ)が、転石の間に多くみられる。

(19)沖縄海域(沖縄島海域)

・調査地区No.93唐泊 外海−保護海岸−磯浜

本調査地区の帯状構造は、上位帯から下位帯へ、イボタマキビ群→コガモガイ群→ウミトラノオ、アナアオサ、アオノリsp.群→造礁サンゴ、ナガウニ群となっている。

生物相をみると、熱帯性生物(コンペイトウガイ、サンゴ類、イボタマキビetc)が多く、本土における生物相と異なる様相を呈している。

 

5.まとめ

 海域生物調査は、わが国の海岸域の潮上帯及び潮間帯の生物相を把握し、今後も基礎調査において継続的にその動向を追い、海岸域の環境の変化を把えようとするものである。

 調査の対象となった潮間帯付近の生物群集は、乾出時間及び頻度、生物相互間の種間競争などによって著しい帯状構造がみられる。

 そして又、このような帯状構造は、環境条件の変化に敏感で密接な関係にある。海岸域の環境の変化を把えるには格好の場所である。

 本調査は、今回が初回にあたるので、各都府県ごとに2カ所(北海道は10カ所)選ばれた調査地点の位置のちがいに応じた生物相の水平分布と帯状構造を把握することに重点を置いた。

 この結果、調査地点間の生物相の相違が明瞭に把えられ、今後のモニタリングのための基礎的な資料を得ることができた。

 

目次へ