序    言

 日ごとに進む一方の自然環境の破壊と、遅々としてはかどらない自然の保護および復元との谷間にあって、誰しも痛感させられるのは、まず基本的なデータが不足していることである。野鳥の分布状況一つをとってみても、その記載は県単位あるいは地方別といった大まかなものでしかなかった。このような状況の中で、さらに詳しい繁殖分布の現状を把握するため、第二回自然環境保全基礎調査要綱にもとづき、昭和53年に全国規模の調査がようやく実施のはこびとなった。この調査は、これまで日本国内で繁殖の知られている鳥類全種を対象に、繁殖期における分布状況を明らかにするもので、環境庁の委託を受けた日本野鳥の会によって実施された。その調査結果を電算機により処理し、各種毎の繁殖分布地図にまとめたものが、本報告書である。

 この調査は、北は北緯45度28分から南は北緯24度17分の間、海抜0から3,000mを越える地点まで調査員を動員し、現地でのデータ収集を中心に行なった。野鳥に関する調査としては、日本では前例のない大規模なものである。しかも、第一回目の調査にして日本で繁殖の知られるほとんどの種類の繁殖分布地図の完成をみたことは、各国識者の驚異の的となった。特にアジアにおいては日本が初めてやり遂げたのである。分布調査の面で、イギリスやアメリカなどに著しく立遅れていた溝を一挙に埋める出発点として、本報告書は一つの大きな礎となろう。鳥類の繁殖分布という純粋に鳥学の立場からも、又自然環境の保全という今日的課題にこたえる基礎資料としても、本報告書が広く活用されることを望むものである。

 繁殖地図調査は、昭和53年の第一回調査を嚆矢として、今後五年毎の継続調査が予定されている。今回の調査結果は、今後の補充改善の母体となるべきもので、不充分な点は順次改めていきたい。御意見御叱声をたまわれば、幸いである。

 本調査およびそれに続く結果のまとめに当っては、本会各支部ならびに会員をはじめ、多くの方々の御支援御協力をいただいた。心からお礼申しあげる。

  昭和56年1月

財団法人 日 本 野 鳥 の 会

会長代行  山  下  静  一

 

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