6.環境寄与度調査

 

6−1 環境寄与度の考え方

 我々が生活する自然環境は、大気、水、土地といった物理的要素と、植物、動物、微生物といった生物的要素が微妙に織りなされた網目のような組織である。これは生態系と呼ばれ、この系の中では、植物は光と水と炭酸ガスから有機物を作り、動物はその有機物を消費する。さらに、微生物は動物の死骸や排泄物を分解し植物に与えるといったように、生産者(植物)、消費者(動物)、分解者(微生物)の役割も大体解明されてきた。いいかえれば、系内では無機物→有機物→無機物という物質代謝が行われ、それに従ってエネルギーと物質が循環している。この系は森林生態系、草地生態系、耕地生態系、都市生態系といったように、各々の系ごとにその特色がある。

 都市生態系という都市における自然の系は、まだ十分に解明されていないが、人間が生物である以上は、我々はこの系の機構を無視しては生存してはいけないという厳粛な事実がある。公害は、人間の作り出した物質が、この生態系の中で異常に多くなったり、また、系の中では分解できないような物質が排出されたと考えることができる。しかし、この限界の程度については正確に分ってはいない。「自然環境が、人間の活動にどのような関わり合いを持っているのか」「都市の環境が悪化しているが、そこでは自然環境はどのような役割を果しているのか」「都市に緑はどの程度必要なのか」といった多くの疑問に答えることは、この生態系の機序の解明を行うことであり、このような環境科学の研究は、今やっと始められたばかりである。

 しかしながら、人間と自然環境との係りあいにおいて、自然環境を自然科学的側面からとらえるのみでは総体としての評価は得られない。そこには当然自然環境を一つの風景としてとらえる立場もあり、また経済的な資源あるいは財としてみる立場もある。このような観点からすれば、自然環境が人間に対してもつ価値を評価するためには多様な価値の評価を含めた極めて総合的な機序の解明を行う必要がある。「環境寄与度」はいわばこのような機序を作動させた結果として得られるものといえよう。この環境寄与度の調査は最終的には自然環境を包括的に評価することを目論むものであるが当面特にデータの欠けている生態系へのアプローチを試みたものが本調査である。

6−2 調査概要

 上述のごとく「環境寄与度」の検討は多専門分野を網羅し学際的立場からなされなければならないが、今回の調査ではこのうち自然生態系のメカニズムを検討することを課題として調査対象を明確にし、調査プログラムを策定し、調査結果の検討を行うために「環境寄与度小委員会」(委員長・田崎忠良・東京農工大学教授)が設置された。

 小委員会では生産者−消費者−分解者といった生態系のメカニズムをモデルとして把握する一方、そのような生物的要素が生活環境に寄与している度合をどのように表現することが可能であるかを検討した。しかしながらこれらのことに答えるためには、現時点ではデータの不足が著しく、包括的な生態系モデル作成のためのデータ集収は困難であるという結論になり今回の調査では生産者である植物の量がどの位あるかという「植生現存量」とその植物が光合成により有機物を年間どの程度生産するかという「植生生産量」の調査を行うことになった。このような植物の量の大小が、大気の浄化能、熱量の吸収能、鳥類や微生物の量や活動力と密接に関連していることは、ほぼ分っているものの、その関係は一義的なものではない。その関係についてはさらに多くの検証が必要である。一つの検証として、消費者である鳥類の調査を行い植生との比較を試みた。しかし、鳥類についてはその現存量までの推定はできず、生息種数の分布状況を調査するにとどまった。また、小委員会で討論はされたが、分解者である微生物の調査は行われておらず、今後の補足が待たれる。

  今回の調査では、現在自然の破壊が著しく、公害・人口密集・宅地造成・優良農地の消滅・樹林地の消滅といった様々な問題を抱える関東地方を調査対象地に選定した。それは、このような生物的自然の量の試算を基礎として、人間活動の種々の要因との相関関係を、今後各方面で検討する必要があると考えるからである。生態系の中では、人間も一消費者である。人間を含めた生態系のメカニズムの問題を地域的な広がりをもって検討した事例が乏しく、この調査が一つの踏台となることを望んでいる。そして、人間の生活環境の中における生物の量について、また、生物的自然の役割について、人々のコンセンサスの得られるよう、自然の有する環境寄与の能力の検討を続けなければならない。

6−3 植生現存量と植生生産量調査

ア 調査対象地域

 本調査の対象地域は、図−21の島しょ部を除いた東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、群馬県、栃木県、茨城県の1都6県に属する関東地方一帯で、5万分の1地形図にして106枚に相当する地域である。

イ 調査の方法

 本調査の方法は、図−22のフローチャートで実施され、その概要は次のとおりであり、また、本調査の際、設定した各種算定測定等の調査基準については次章で説明することとする。

(ア)現存植生図1の収集

各都県単位で作成された植物社会学的現存植生図(縮尺1/50,000)106面を収集し、現存植生図1とした。

(イ)既存資料の収集

後述する各算定基準及び各区分基準の参考として、生産量、現存量を含む植物の生育及び林木の生長を示す各種の資料を収集した。

(ウ)植生区分1

関東地方全域の5万分の1現存植生図1をもとに、対象地域内に分布するすべての群落群集を抽出し、既存資料を参考にしながら、植生区分1を行った。植生区分1は、まず、土地利用形態別に項目の大区分を行い、現存量・生産量の測定条件を満足するような細分を行って総計32項目の区分とした。この32区分に従って、植物社会学的に得られた群落群集について優占種に着目し、なおかつ生態的に近似するものを総括し、群落群集の再編を実施した。区分基準については次項で詳述する。

(エ)植生区分図1の作成

植生区分1に従って、現存植生図1の群落群集を再編し、32項目に分類された植生区分図1を106枚(縮尺1/50,000)作成した。

(オ)空中写真による現存量測定地点の設定

a 植生現存量モデル地帯の抽出

土地利用、地域環境等が典型的な特色を示す地域をモデル的に選定し、モデル調査地帯とした。この地帯は関東地方106枚の5万分の1地形図のうち図−23の26枚の地域である。

b 精密植生区分別現存量推定地域の抽出

モデル調査地帯の中から5万分の1地形図ごとに20地域を選定し、空中写真の立体視樹木判読により詳細な現存量を推定するための調査地点を精密植生区分別現存量推定地域とした(図24参照)。

(カ)空中写真

空中写真は、撮影縮尺2万分の1を使用した。モデル調査地帯が広範囲に及んでいるため、既存の空中写真では撮影年度、撮影縮尺が異なり精度的に難点が考えられるため、新しく撮影を試み、昭和48年晩秋から昭和49年初冬にかけての空中写真(撮影縮尺1/20,000)を使用した。

(キ)写真判読基準の決定

樹林地について量的因子を設定し、後述する樹高区分、樹冠疎密度区分の各基準を立体視による樹林地の空中写真判読基準とした。

(ク)空中写真判読による植生型区分

植生区分1の32項目に従い、森林については、樹高、樹冠疎密度の立体的な写真情報を判読し、それぞれ空中写真上に被せたオーバーレイ(マイラー)に展開した。

(ケ)モデル調査地帯の写真判読結果の展開

空中写真判読で読みとられた、各樹林の樹高階及び樹冠疎密度階の各記号を、モデル調査地帯として設定された5万分の1地形図26枚に展開した。

(コ)現存量算定基準の決定

現存量の算定基準は、森林では既存量データと材積表(収穫表)を対比し、また森林以外のものは既知のデータを参考にし、陸域環境寄与度専門部会で討議検討され決定された。

(サ)モデル調査地帯現存量図作成

空中写真の判読結果と現存量算定基準から、精密植生区分別現存量推定地域の現存量を決定し、これを基準に他のモデル調査地帯の植生区分図1及び地形図情報等より、モデル調査地帯全域の現存量を推定し、モデル調査地帯現存量図(5万分の1)26枚を作成した。

(シ)平均単位現存量の算出

関東地方全域の106枚の現存量図の作成は、モデル調査地帯現存量図を基準に行われた。その展開の際には両方の共通因子を見い出して、展開しなければならない。よって、106面の現存量図展開のために、森林以外については、植生区分1ごとに、森林については、植生区分1と地形因子の組み合せごとに、基準となる平均単位現存量を算定した。算定方法並びに算定値については、次項で説明する。

(ス)植生現存量図の作成

モデル調査地帯から算出された平均単位現存量を基準に、植生区分図1の結果を対比させ、各現存量を推定し、5万分の1地形図106枚に展開して植生現存量図を作成した。この現存量に記載する現存量の単位は、ton/haとし、地上部の総乾燥重量で示した。

(セ)メッシュの画定及びメッシュ単位現存量の測定

(ス)で作成された、植生現存量図1の図葉ごとに縦横20等分のメッシュを画定し、1メッシュごとに、優占する植生区分及びその現存量と面積を測定しメッシュデータとした。

(ソ)生産量算定基準の決定

生産量の算定基準の決定は、(コ)の現存量算定基準の決定と同様に、森林とそれ以外に分け、2種類の方法で行った。森林については、既知の純生産量データと材積表(連年生長量を対象)を対比し、森林以外のものについては既知の純生産量データを参考に専門部会で討議を重ねて決定した。生産量の単位は、地上部・地下部を併せた純生産量、ton/ha/yearである。

(タ)メッシュ単位生産量の算定

(ソ)の生産量算定基準に従って、植生区分図1に対応させて、メッシュ単位現存量の測定と同様の要領でメッシュ内の純生産量と占有面積を測定した。

(チ)メッシュ単位データシートの作成

関東106面の5万分の1地形図に対応するメッシュ図(B4版)を作成し、個々のメッシュに植生区分1(代表区分)、面積、ha当り現存量、ha当り純生産量を転記して、メッシュ単位データシートを作成した。

(ツ)電子計算機使用による磁気テープの作成

(チ)で得られたメッシュ単位データシートをもとに、電子計算機用データシートを作成し、パンチカード、電算処理を経て、全データを磁気テープ(MT)に収録した。収録は、県コード、メッシュ番号、代表区分、面積、現存量、生産量の順で各メッシュごとに行い、その書式については次項で後述する。

(テ)縮小図の作成

5万分の1各区分図をもとに20万分の1地勢図にそれぞれ展開して、植生区分図、植生現存量図及び植生生産量図の縮小図を作成した。縮小植生区分図は32区分の凡例(表−29表−31群落群集再分類表参照)で、また、縮小植生現存量図は6ランク、縮小植生生産量図は5ランクで表わした。(表−30 現存量、生産量ランク区分参照)。

ウ 調査の基準

 本調査の実行で、設定した調査の基準について、説明する。

(ア)植生区分1

植生区分1は現存量、生産量を算定するため、現存植生図の群落群集区分項目について土地利用形態別に5項目の大区分を行い、現存量・生産量の測定条件を充足しうる項目を検討し、選定された32項目の細区分である。32項目に属する群落群集再分類は表31のとおりである。

表31の群落・群集の再分類については次のとおり実施した。

A)群落・群集名が単一の場合は、そのまま32区分の該当項目に分類し、異質の場合は、現存量が量的に優占するものを代表し、分類した。

B)Aで判明し難い森林については高木層をもって代表し分類した。

C)A、B二項で確定し難い群落・群集名については、32区分の項目で現存量が量的に近似し、性状も類似する項で分類した。

(イ)空中写真による植生型区分

立体的要素を必要とする区分コード01から08まで森林については空中写真で立体視して得られる情報(樹高階、樹冠疎密度)を、樹高階、樹冠疎密区分設定にあたっては、後述する現存量・生産量算定因子となる材質曲線(図−25図−26)、連年生長量曲線(図27図28)を指標に実施し、次のような基準を設けた。

空中写真による植生型区分

イ)樹種区分(植生区分1参照)

ロ)樹高階区分

 a.スギ林(コード番号07に適用)

樹高階

T

樹高

5m以下

U

6〜10m

V

11〜15m

W

16〜20m

X

20m以上

 b.マツ林他(コード番号01〜06と08に適用)

樹高階

T

樹高

5m以下

U

6〜10m

V

11〜20m

W

20m以上

ハ)樹冠疎密度区分(コード番号01〜08に適用)

樹冠疎密度

樹冠占有率

25%未満

25〜49%

50〜74%

75%以上

このような基準に従い、空中写真を立体視して判読し、区分コード番号01から08までの森林の中高木群については、次のような方法で記入し、それ以外の区分型については、そのまま植生区分1のコード番号を転記した。

空中写真による植生型区分例

樹種区分・樹高階区分・樹冠疎密度区分

 01 ・  IV   ・   d  

(常緑広葉樹林・20m以上・75%以上)

(ウ)現存量の算定

現存量の算定については、既知の現存量データや現存量を推定できる材積及び収穫データを収集し、その標準の値を基準とした。森林の中高木以外については、そのまま各植生区分型の既知の現存量を関東地方に適応させて用い、中高木群については、樹種別に森林の蓄積データから材積カーブを算定し、各樹高階に相当する各材積ごとに、既知のデータで関東地方の現存量として適切な値を対応させて求めた。図−25図−26は、それぞれスギ、マツの材積曲線の例であるが、求めた材積カーブは、この他、カラマツ、ダケカンバ、ブナがあり、カラマツは、落葉針葉樹林、ダケカンバはカバ類及びナラ類、マツはマツ林、天然性針葉樹林及び常緑広葉樹林の算定に用い、各々の既知の現存量の適切な値を対応させて求めた。中高木群で樹高階別現存量の算定は上述したように樹高階別材積比で、また、樹冠疎密度階別現存量の算定は、基準となるデータが存在しないので、その単純比で算定した。

現存量の対象はデータ量の多い地上部を対象したものであり、このようにして、求めた各植生区分別現存量は、表−32のようにまとめられる。

(エ)現存量図の展開

モデル調査地帯では空中写真と植生区分図1で得られる情報に従って現存量が求められるが、関東地方全域に展開するためには、植生区分1の情報だけでは、樹林地の現存量の展開が困難であるので、次の基準とした。まず、モデル地帯に出現する各植生区分型の分布状況を検討し、現存量に変動幅の大きい森林、特に中高木林については、地形図情報でありかつ、樹木の物質生産に大きな影響を与える垂直分布要素の海抜高と土地利用度から、

1.都市近郊地帯と平野部

2.海抜500m以下の丘陵及び山地

3.海抜500mから1,000mまでの山地

4.海抜1,000m以上の山岳地帯

に分類し基準にした。

また,農地用は、現存量の地域性が大きいことから畑地、水田を二区分し、

畑地A  都市近郊畑作地(東京、神奈川、埼玉、千葉)

畑地B  一般畑作地(栃木、群馬、茨城)

水田A  一毛作田

水田B  二毛作田

とした。(表−32  現存量算定基準参照)

前者の中高木群の地域別現存量は、モデル調査地帯の中で、樹種と地域との間に出現する頻度図を作成した時の平均値をもって、次のような樹高階及び樹冠疎密度階に一致する現存量とした。また、生産量についても同様にモデル調査地帯をもとに全域の値の読み取りは表−33が基準となる。

(オ)メッシュの測定

メッシュナンバーは、総理府統計局の地域メッシュコードに従って番号づけ、各々以下のように表わした。

イ)県コード

都  県  名

コードナンバー

茨 城 県

08

栃 木 県

09

群 馬 県

10

埼 玉 県

11

千 葉 県

12

東 京 都

13

神奈川県

14

ロ)20万コード

図  版  名

コードナンバー

静     岡

5238

横  須  賀

5239

大  多  喜

5240

甲     府

5338

東     京

5339

千     葉

5340

長     野

5438

宇  都  宮

5439

水     戸

5440

高     田

5538

日     光

5539

白     河

5540

ハ)2.5万コード

20万分の1地形図を縦横8等分をしたのが、2.5万分の1地形図に相当し、それぞれ西・南を基準に0から7までナンバーリングし、00、01、02から77までのコードナンバーで、記される。

ニ)メッシュコード

前項と同一手法で、2.5万分の1地形図を縦横10等分したのが1メッシュに相当し、西・南を基準に0から9までナンバーリングし、00から99までのコードナンバーで記される。

このようなメッシュは数値で示されるが、メッシュ内のデータの測定は、次のようにして行った。1メッシュの中心に直径5mmの円を設けその円内で優占するものを代表植生区分と決めて、面積の測定は、そのメッシュ内で占める代表区分すべてについて行い、メッシュデータとした。また、円内に海域が半数を占める場合は海域扱いとし、現存量の算定から除外した。しかし、それらが湖沼や河川の場合は、開放水域と判定し、現存量を積算した。

各県別メッシュ数は次のようになる。

茨 城

5,857

メッシュ

栃 木

6,188

群 馬

6,150

埼 玉

3,636

千 葉

4,882

東 京

1,694

神奈川

2,287

ただし、このメッシュ数は、河川湖沼等を含めた関東地方全体の陸域を対象とし、島しょ部は除いたものである。

(カ)生産量の算定

生産量については、各データを収集し検討した結果、データ数の豊富な地上部地下部を併わせた純生産量を対象することとした。

生産量の算定方法も、現存量の場合と同様の手法をとり、中高木群以外については既存データの標準値で代表し、中高木群については、純生産量の最高・最低のデータを収集し、本調査地の純生産量に適合する最低及び最高標準値を決めて、各樹種区分の純生産量とした。ここで、樹木は樹令により生長量つまり純生産量が異なるので、図−27図−28のような連年生長曲線を設け、各生長量別に樹令を算定し、その時点の樹高を類推した。この樹高階区分別生長量に比例するように、前述した純生産量を配分し、各樹高階区分別純生産量を求めるとともに樹冠疎密度の状況に応じて、単純比で各因子の純生産量を決定した。このようにして求められた純生産量は表−34のとおりである。

(キ)磁気テープ(MT)への収録

本調査は、最終結果を磁気テープ(以下「MT」という。)に収録することを目的に実施されたので、MTに収録した項目とその書式について簡単に記す。

イ)MTへの収録項目

1.タイトル……スタンダード(フォートラン)

2.県コード

3.20万分の1地形図の図葉コード

4.2.5万分の1地形図の図葉コード

5.メッシュコード

6.代表区分コード

7.面積……代表区分の占有実面積(単位ha)

8.現存量……代表区分の地上部現存量(単位ton/ha)

9.生産量……代表区分の地上部・地下部純生産量(単位ton/ha/Year)

ロ)MTの書式

MTへの収録は、イ)で掲載した項目をロ)のような方法で行った。つまり、最初に図葉を示すコードが記載され、メッシュデータがその図葉内ですべて記載されると次の図葉コードに移行し、この順序でデータを収録している。

6−4 集計結果の概要

 以上の調査手順による植生現存量及び植生生産量の集計は以下のとおりである。植生現存量の集計に当っては、単位現存量を6段階の階層に区分し、都県別に該当メッシュ数とその構成比、並びに植生現存量を試算した。植生現存量は、各メッシュ別に

単位現存量(トン/ヘクタール)×メッシュ面積(ヘクタール)

を試算し、これを都県別に集計したのち2桁の有効数字によって表現したものである(表−35)。

 また,関東全域についてデータを用いて都県別メッシュ・マップ、及び植生現存量図として表示すると図29のごとくになる。この場合、メッシュは1kmメッシュを縦横5個ずつ(計25個)をまとめたものを1メッシュとし、植生現存量は平均値で示した。

 植生生産量は純生産量を5段階の階層に区分し、都県別に該当メッシュ数とその構成比、並びに植生生産量を試算した。

 植生生産量は、各メッシュ別に

純生産量(トン/ヘクタール1年)×メッシュ面積(ヘクタール)

 を試算し、これを都県別に集計したのち2桁の有効数字によって表現したのが表−36である。

 また関東全域についてデータを用いて都県別メッシュ・マップ、及び植生生産量図に示すと図30のごとくになる。この場合、メッシュ表示は植生現存量に準じた。

 次に植生現存量及び生産量について都県別に比較してみよう。

 植生現存量・生産量の都県別集計(表37参照)をみると、関東地方の植生現存量は全体で1億2,000万トン、植生生産量は2,600万トンであり、その単位面積当りを比較すると、最大の群馬県の現存量5,100トン/キロ平方メートルと最少の東京都2,300トン/キロ平方メートルであり、2倍程度にすぎない。しかし、1人当りの現存量を比較すると、群馬県の18.8トン/人に対し東京都の0.4トン/人となり、約50倍の差があることになる。植生生産量については、群馬県と東京都の1人当りの比較は約28倍となっている。

 また,1キロメッシュによる集計(表−36・参照)を各都県別に比較すると、都市砂漠化を指標する現存量2トン/ヘクタール以下の地域は東京(47.6%)、神奈川(29.7%)、埼玉(12.4%)、千葉(11.8%)となっており、この値は生産量についても同様である。関東地方でも都市化の少ない栃木(6.2%)、茨城(6.1%)、群馬(4.8%)に比較すると、東京都の都市化の大きさが明瞭になっている。(図31図32・参照)

6−5 鳥類生息分布調査

ア 調査方法

 この調査も関東地方を対象として行われた。調査は夏と冬の年二回、約5.5キロメートル×4キロメートル(5万分の1地形図を縦横各4等分した16個のメッシュ)の調査区ごとに、調査員が観察、聴取り及び既存の資料を活用して、その中に生息する鳥類の種名を記録する。記録された種類数をA:70種以上、B:50〜69種、C:30〜49種、D:10〜29種、E:10種未満の5ランクに区分して鳥類種数分布図を作成した。(表38図33・参照)

イ 調査結果

 各都県別の分布調査表は、表38の通りである。この表からみると、関東地域では、70種以上の地域:23.9%、50〜69種の地域:26.2%、30〜49種の地域:21.4%、10〜29種の地域:24.2%、10種未満地域:1.0%、未調査地域:3.3%となっている。また、各都県別にその結果を見ると二つの傾向があるように思われる。30種以上の種が分布すると報告した地域が、県土の90%以上を占める県は、茨城、栃木、群馬、神奈川であり、反対に30種以上の地域は埼玉では26.0%、千葉では9.9%しかない。(図34・参照)

 この調査は、都県によって既存文献等の活用に精粗があったり、また、調査員の数や能力にも差異があるので、都県別比較についてはこのことを考慮する必要がある。

 表39は、群馬県、茨城県及び東京都の調査区内に出現した野鳥のベスト10の比較である。各都県ごとの出現する鳥の種類についてはほぼ類似である。出現率について1位から10位までの有意差は未調査区も多く、現在では検討するのは無理である。が、群馬県ではヒヨドリ・スズメといった鳥が10位内に入らない。これは関東地域の中では低地帯が少なく、都市化部分の少ないことを表わしているのであろうが。群馬県では、カケス・アオジといった低山帯より亜高山帯に分布する鳥がベスト10内に入ってくる。生物の分布が、地域の自然環境、生活環境の現状を知らせる役割を持つ(生物指標)ことは、よく知られており、この自然環境保全調査等でも利用されているが、今回は十分な資料が得られなかったものもあり、今後さらに整備されなければならない項目である。特に自然度調査、環境寄与度調査の目的に適った指標生物が、その利用精度と合わせて検討されることが大切である。

 

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