ネコ目 ネコ科 絶滅危惧IB類(EN)

和名 イリオモテヤマネコ  
学名 Felis iriomotensis
原記載
英名 Iriomote cat
固有性 日本固有種



摘要

1967年に新種記載された、ベンガルヤマネコ(F. bengalensis)に近縁な野生ネコで、沖縄県西表島(292km2)のみに分布する。生息数は1985年および1994年に100頭前後と推定され、大きな変化は認められていない。生息地の改変、交通事故などが存続を脅かす要因と考えられている。種の保存法による国内希少野生動植物種に指定され、保護増殖事業が進められている。


形態

背中は焦茶色で、側面には灰褐色の地に暗褐色の斑紋が散在する。腹面は淡色である。後頭部から額、眼の周りに白と黒の縞が走る。耳介は先が丸く、背面に白斑がある。オスの方が大きく、頭胴長はオスで約55〜60cm、メスで50〜55cm、尾長23〜24cm、体重3〜4kg。体色が全体に黒っぽく、四肢や尾が太い。


分布の概要

沖縄県八重山郡西表島(293km2)のみに分布する。近縁種のベンガルヤマネコは東アジアから東南アジアに広く分布する。日本には、その1亜種ツシマヤマネコが長崎県対馬に分布している。


生物学的特性

基本的に夜行性で、朝と夕方に活動のピークがある。単独性で、行動圏の大きさはオスが2〜3km2、メスが1〜2km2であるが、地域、季節、個体によって差が大きい。島の低地部の湿地、河川・沢沿いをよく利用し、マングローブ林、農耕地周辺も利用する。泳ぎが巧みであり、また樹上でも狩りをする。低地での生息密度は0.5〜0.8/km2と推定されている。餌動物は小型哺乳類、鳥類、爬虫類、カエル類、昆虫類と多様で、とくによく捕食されているのはクマネズミ、シロハラクイナ、シロハラ、キシノウエトカゲ、マダラコオロギなどである。発情のピークは2〜4月で、出産は4〜6月と推定されている。出産・育児についての情報は少ないが、2頭前後を樹洞などに産んだ事例が報告されている。


分布域とその動向

生息情報は標高200m以下の低地部に偏り、山地部には少ない。近年における分布域の大きな変化は知られていない。

分布情報:2次メッシュ数:1、3次メッシュ数:1(第4回自然環境保全基礎調査)


個体数とその動向

生息数は、1985年に83〜108頭、1994年に99〜110頭と推定され、100頭前後で安定していると考えられている。


生息地の現況とその動向

西表島は、90%以上が森林に覆われ、その大部分は常緑広葉樹の自然林と二次林で、人工林(主としてリュウキュウマツ林)は6.3%にすぎず、森林域の変化は少ない。西表国立公園(12,506ha、1972年指定)、西表島森林生態系保護地域(11,588ha、1991年)などが設定されている。ただし、これらの地区はイリオモテヤマネコの好適生息地である東部から北部の低地部を十分カバーしていない。イリオモテヤマネコの主要生息地である低地部では、農地改良、観光開発、道路整備が進められている。


存続を脅かしている原因とその時代的変化

農地改良、観光開発などによる好適生息地の改変、交通事故(2〜3頭/年)、イヌによる捕食などが存続に悪影響を及ぼす主たる要因と考えられている。交通事故死は、1978年から2000年までの期間に29件が報告されている。イエネコからの感染症についても懸念されているが、これまでのところ確認例はない。


特記事項

ミトコンドリアDNAの分析から、本種はベンガルヤマネコの亜種で、約20万年前に分岐したとする見解がある。また、個体群内の遺伝的多様性は低いことが示唆されている。


保護対策

1972年に国の天然記念物、1977年に特別天然記念物、1994年に国内希少野生動植物種に指定されている。環境庁(当時)により、1974〜76年度に「イリオモテヤマネコの生態及び保護に関する研究(第1次特別調査)」、1982〜84年度に「イリオモテヤマネコ生息環境等保全対策調査(第2次特別調査)」、1992〜93年度に「イリオモテヤマネコ生息特別調査」が実施された。1979年からは生息状況モニタリングが行われている。1991年には西表島の中央山岳部を中心に国設西表鳥獣保護区(3,841ha、うち特別保護地区2,306ha)が設定された。また、1995年に開設された西表野生生物保護センターが調査研究、保全活動の拠点となっている。環境省、地元自治体を含む関係諸機関による交通事故防止のため標識の設置、道路構造の工夫などが始められている。ほかに林野庁による国有林における巡視、民間団体による保護活動、啓発活動なども行われている。


参考文献
1. Imaizumi, Y., 1967. A new genus and species of cat from Iriomote, Ryukyu Islands. J. Mammal Soc. Jpn., 3(4): 74-105.
2. 伊澤雅子,1996.イリオモテヤマネコ.沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物−レッドデータおきなわ−,pp.284-285.沖縄県自然保護課.
3. 伊澤雅子・土肥昭夫,1991.イリオモテヤマネコ・ツシマヤマネコ保護対策の現状.哺乳類科学,31(1): 15-22.
4. Izawa, M., N. Sakaguchi and T. Doi, 2000. Recent conservation programs for the Iriomote cat Felis iriomotensis. Tropics, 10(1): 79-85.
5. Masuda, R. and M. C. Yoshida, 1995. Two Japanese wildcats, the Tsushima cat and the Iriomote cat, show the same mitochondrial DNA linage as the leopard cat Felis bengalensis. Zoological Science, 12: 656-659.
6. Okamura, M., T. Doi, N. Sakaguchi and M. Izawa, 2000. Annual reproductive cycle of the Iriomote cat Felis iriomotensis. Mammal Study, 25: 75-85.
7. 阪口法明,1996.イリオモテヤマネコ.川道武男(編),日本動物大百科1(哺乳類?),pp.108-111.平凡社,東京.
8. 自然環境研究センター,1994.平成5年度イリオモテヤマネコ生息特別調査報告書−第3次特別調査−.自然環境研究センター,東京.101pp.

The Iriomote cat (Felis iriomotensis), discovered in 1967 and closely-related species to Felis bengalensis, is endemic to Iriomote Island (293 km2) of Okinawa Prefecture. The preferred habitat is forested lowlands of coastal areas. The population was estimated at about 100 in 1985 and 1995 and is considered to be stable. Main factors threatening the species are habitat destruction and road kills. The cat was designated as National Endangered Species in 1994 and various conservation programes are being conducted.

石井信夫(自然環境研究センター)


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