スズメ目 ツグミ科 絶滅危惧IA類(CR)

和名 オオトラツグミ  
学名 Zoothera dauma major
原記載
英名 【White's thrush】
固有性 日本固有亜種



摘要

奄美大島のみに生息する固有亜種。独特のさえずりを持ち、九州以北で繁殖し奄美大島でも越冬する亜種トラツグミ(Z. d. aurea)と明らかに繁殖隔離が成立していることから、独立種(Z. major)と考える意見が大勢。繁殖個体群が50つがいをいくらか超える程度ときわめて小さく、台風や外来伝染病などの突発事象によりすぐに絶滅するおそれもある。生息環境が極限され、林床の湿潤な照葉樹天然林が開発されて減り、移入捕食者が生息域に進入していることが生存の脅威となっている。早急な保護対策が望まれる。


形態

翼長160〜173mm(n=5)。体重およそ180g(春)。くすんだ黄褐色ないしはオリーブ色で、羽軸周辺が白く、先端の黒い羽毛の斑模様に全身覆われていて、腹部は淡色、尾羽は黒っぽい。尾羽がすべての個体で12枚(亜種トラツグミは14枚)。


分布の概要

10羽以上が連続してさえずっているのは、名瀬市近郊の里林道終点から、金作原までと西へのびるスーパー林道沿い、および住用川源流部の神屋国有林周辺のみ。とくに、住用川流域が重要な生息中心になっている。湯湾岳、油井岳、網野子、節子、和瀬、金川岳、戸玉、西役勝、部連などの周辺で確認されている。


生物学的特性

樹冠がよく閉鎖し、風があまり当たらず林床の湿度が高いといった条件のすべて揃った照葉樹天然林で生息が確認されている。そのような森林の多くは谷あいの壮齢林である。照葉樹壮齢林で林冠が閉鎖していても、山頂の西側や海岸沿いの斜面などのように風がよく当たり林床が比較的乾いていると推測される区域では、本亜種のさえずりは確認されない。地上で落葉をひっくり返しながら採餌しているのや、枝の上にとまって休息しているところが断片的に観察されている。2000年5月に初めて2巣の営巣行動が記録され、1羽が常に巣に残り、巣内の雛には主にミミズ類を給餌した。卵は2個、雛は2羽ずつが確認された。

繁殖期には早朝の明るくなる直前の約30分間を中心に、一斉にさえずる。九州以北で繁殖する亜種トラツグミのさえずりと著しく異なり、本亜種のさえずりは、節回しがマミチャジナイ(Turdus obscurus)、音色がクロツグミ(T. cardis)に似た「キュルリーン」、「キョロリン」などと聞こえる。繁殖隔離は完全に成立していると推定される。亜種トラツグミは奄美大島においても9〜4月頃まで越冬して本亜種と同所的に生息する。


分布域とその動向

1997年から、生息するほぼ全域の春さえずり個体数が継続調査されている。

繁殖期分布情報:サブメッシュ数:0(第2回自然環境保全基礎調査)

越冬期分布情報:2次メッシュ数:0、3次メッシュ数:0(第3回自然環境保全基礎調査)


個体数とその動向

過去の個体数はまったく不明。1990年から、さえずり個体計数調査が開始され、1997年からは生息域のほぼ全域で継続している。2002年に最大のさえずり個体数83羽を確認した。さえずっている全個体数は、この値を大きく超えることはないと考えられる。さえずる個体が一方の性(たとえばオス)だけなのか、さえずっている個体の内どの程度の割合の個体が営巣し、繁殖に成功しているかがまったく不明であるため、有効個体群サイズや繁殖個体群サイズなどを直接推定できない。しかし、連年のさえずり個体数の記録から、個体数がきわめて少ない(100つがい未満程度)こと、その少ない状態でわずかに変動しているらしいことが推定される。


生息地の現況とその動向

生息に適していたと思われる森林が伐採されており、分布域は縮小してきたと推測される。現在は、森林の伐採面積が減り、生息域の縮小傾向は低下していると推測される。


存続を脅かしている原因とその時代的変化

分布域の多くにネコ、マングース、ハシブトガラスやクマネズミが侵入するようになってきており、主に地上で採餌活動を行う本亜種への捕食圧が高まっているおそれがある(52)。観察した巣の1つで、雛がハシブトガラスに捕食された。


特記事項

系統関係は不明だが、多彩なさえずりを持つ東南アジア地域の多くの個体群と自然交雑する可能性はなく、したがって、本亜種は独立種と考えるのが妥当である。


保護対策

種の保存法に基づく国内希少野生動植物種(ただし、同法施行令ではひたき科トゥルドゥス・ダウマ・アマミとされている)。1965年、国設湯湾岳鳥獣保護区(320ha、うち特別保護地区103ha)。1999年、環境省保護増殖事業計画策定。2000年、同奄美野生生物保護センター設置。2001年、同マングース駆除事業開始。国の天然記念物。


参考文献
1. 石田健・金井裕・金城道男・村井英紀,1990.オオトラツグミZoothera dauma amami の分布,生態および保護.1989年度環境庁特殊鳥類調査報告書,pp. 41-63.環境庁.
2. 石田健・杉村乾・山田文雄,1998.奄美大島の自然とその保全.生物科学,50(1): 55-64.
3. 石田健・高美喜男,2000.2.鳥類.奄美大島希少野生生物調査報告書,pp. 27-53.自然環境研究センター,東京.
4. 石田健・植田睦之・藤田剛,1995.奄美大島におけるオオトラツグミの生息状況.奄美大島希少鳥類生息状況調査報告書,pp. 41-59.環境庁.
5. 高美喜男・藤本勝典・川口和範・川口秀美・石田健.2002.オオトラツグミ Zoothera major の初めて観察された巣立ちまでの営巣経過2例.Strix 20: 71-77.
6. 高美喜男・川口和範・石田健,1999.オオトラツグミ Zoothera (dauma) major とトラツグミZ. d. aurea の保護個体の形態およびオオトラツグミの保護対策への付言.Strix,17: 191-196.

Zoothera dauma major is a large thrush subspecies endemic in Amami-Oshima Island in southern Japan. It is distinguished from Z. d. aurea, which occurs widely in Japan and Eurasia, by its unique song and the number of rectrices (12 compared to 14 of Z. d. aurea). Lack of phylogenetic studies among the Z. dauma populations in Eurasia impedes complete acceptance of the specific status of this bird in Japan, which is reproductively isolated from other populations. It inhabits humid mature broad-leaved evergreen forests, where it feeds on invertebrates on the forest floor. As the population is estimated to consist of barely more than 50 singing birds, it is deemed to be highly vulnerable to catastrophic natural phenomena, such as typhoons, and to epidemic diseases. The threats to this taxon include destruction of its mature forest habitat, and predation by introduced mammals (including mongoose, domestic cats, and rats),and by jungle crows Corvus macrorhynchos. Conservation efforts are urgently required to safeguard the future of this endemic taxon.

石田健(東京大学大学院農学生命科学研究科)


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