チドリ目 カモメ科 絶滅危惧II類(VU)

和名 コアジサシ  
学名 Sterna albifrons sinensis
原記載
英名 【Little tern】
固有性



摘要

夏鳥として渡来する小型のアジサシ類。かつては本州以南の各地の水辺で繁殖していた。近年では自然の河川敷や砂浜の繁殖地が減少し、造成地にできた裸地を利用することが多い。繁殖地では、卵や雛が捕食されたり、造成工事やレジャーによる人為的攪乱を受けるケースが多く、繁殖成功率は高くないと考えられる。


形態

全長は約28cmである。成鳥夏羽は頭頂〜後頭部が黒色で、体と翼の上面は淡灰色、額、下面、尾羽は白色、嘴は黄色で先端が黒色、脚は橙黄色である。冬羽では頭頂部に白色が混じり、嘴と脚が黒色になる。雌雄は羽色、形態とも酷似しており、野外で区別することは困難である。夏羽では類似した種はないが、冬羽は他のアジサシ類とよく似ているため、識別には注意を要する。


分布の概要

種としては、ユーラシア大陸からヨーロッパ、北アフリカ、オーストラリアの広い地域に分布、繁殖する。日本には本亜種が夏鳥として渡来し、本州(秋田・宮城県以南)、四国、九州、琉球列島で繁殖する。まれに青森県でも繁殖が確認されている。国内で繁殖する本亜種の越冬地はまだ知られていないが、標識放鳥された個体がパプアニューギニアやフィリピン、オーストラリアで回収されている。


生物学的特性

日本には4月に渡来して9月頃まで見られる。海岸や河川、湖沼などの水辺に生息し、水中にダイビングして主に小型魚類を採餌する。砂浜海岸や河川敷の砂礫地を利用して集団で繁殖するが、埋立地などの人工裸地を利用することも多い。繁殖は一夫一妻で行う。地表を浅く掘って巣とし、1〜3卵を産む。抱卵日数は約20日で、雛は約1ヶ月で飛翔可能となる。小櫃川河口など東京湾岸の干潟や浅瀬には、8月に数千羽が集結することが知られる。


分布域とその動向

かつては砂浜や河川敷などの自然地形で普通に繁殖していたが、近年では造成地を利用することも多い。1990年代には東京湾や大阪湾などの内湾や静岡県の遠州灘海岸や天竜川下流域、北九州で数百羽を超える大規模な繁殖地が知られていた。繁殖地の場所や規模が年ごとに変化するため、国内全体での繁殖状況は十分把握されていない。なお、下記の越冬期分布情報については再確認の必要がある。

繁殖期分布情報:サブメッシュ数:163(第2回自然環境保全基礎調査)

越冬期分布情報:2次メッシュ数:3、3次メッシュ数:4(第3回自然環境保全基礎調査)


個体数とその動向

国内に生息する個体数は資料がなく不明である。繁殖個体数は多くて5,000〜10,000つがいと推定する報告もある。


生息地の現況とその動向

砂浜や河川敷など自然地形の繁殖地は減少した。東京湾岸では広大な面積が埋立てられた1960年代以降に多数の繁殖が見られたが、土地利用の変化にともない繁殖適地は減少した。人工裸地を利用することは多いが、このような環境が長期維持されることは少なく繁殖地としては不安定である。


存続を脅かしている原因とその時代的変化

繁殖地として利用可能な場所が限られているうえに、さまざまな攪乱要因があり繁殖成功率は高くない。とくにカラス類やチョウゲンボウ(Falco tinnunculus interstinctus)などの捕食者によって卵や雛が捕食される(52)事例は各地で報告され、繁殖の成否に対する影響が大きい。河川敷では梅雨時の増水によって卵や雛が流失することがある。また近年では、アウトドアレジャーを楽しむ人や車が砂浜や河原に立ち入ることで、巣の破壊や営巣地の放棄を招いたり、卵や雛が不法に採取される(43)ことがある。造成地では土地造成工事(23)により繁殖地が攪乱されるほか、工事の進行により繁殖可能な場所は数年でなくなることが多い。繁殖地の面積は毎年大きく変化し、小規模化した繁殖地では捕食者による影響を受けやすくなる。また、遷移進行(54)による裸地の草地化も、繁殖を阻害する要因である。


特記事項

本亜種と同様の環境で繁殖するシロチドリ(Charadrius alexandrinus nihonensis)やコチドリ(C. dubius curonicus)などの地上営巣性鳥類も、繁殖適地が減少している。


保護対策

種の保存法に基づく国際希少野生動植物種。

千葉県九十九里海岸や静岡県遠州灘海岸などの砂浜海岸では、繁殖地の周囲を柵で囲って車輌や人の立ち入りを規制し、効果を上げている。河川敷では増水対策として中州の嵩上げが試みられているが、すぐに草地化してしまい裸地の維持が難しい。造成地では、繁殖が確認された場合に工事を一時中断するといった協力が得られる例もあるが、地価や土地利用上の問題から保護区として確保することがきわめて困難である。海外では繁殖地用の裸地を造成して誘致した事例があり、わが国でもNGOによる取り組みが見られる。


参考文献
1. 環境庁自然保護局・日本野鳥の会,1993.第4回自然環境保全基礎調査 動植物分布調査報告書(鳥類の集団繁殖地及び集団ねぐら).環境庁自然保護局,東京.268pp.
2. 桑原和之・箕輪義隆・早川雅晴・木幡冬樹・嶋田哲郎,1997.湾岸都市千葉市の鳥類3.コアジサシの生態,とくにその繁殖ステージについて.湾岸都市の生態系と自然保護,pp. 483-504.信山社サイテック,東京.
3. 桑原和之・早川雅晴・石黒夏美・佐藤達夫・澤口晶子・笠井貞義・箕輪義隆・石毛久美子,2000.4-2. 東京湾岸,とくに千葉市周辺におけるコアジサシの繁殖状況.東京湾の鳥類−多摩川・三番瀬・小櫃川の鳥たち−,pp. 470-526.たけしま出版,流山市.

Sterna albifrons sinensis is Japan's smallest tern. This subspecies is a summer visitor to the central and southern parts of Honshu and to islands further south. It is associated with various bodies of water including bays, estuaries, and large rivers, into which it plunge dives to catch small fish. It sometimes breeds on bare lots in developed areas, such as large parking lots, as well as on natural gravel beds, such as along river basins or along beaches. Its breeding success is, however, poor at developed sites due to avian predation on eggs and nestlings, and human disturbance particularly relating to recreational activities and development/construction. Protecting and providing suitable breeding grounds is the primary conservation requirement for this taxon.

箕輪義隆(日本鳥類保護連盟調査室顧問)


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