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汽水・淡水魚類概説
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魚類という名称は、系統分類学の見地からはかなり慣習的ないしは便宜的な用語である。
地球上に最初に出現した脊椎動物は顎をもたなかった。
現生のメクラウナギ類とヤツメウナギ類はその生き残りである。
顎の獲得は捕食能力を飛躍的に増大させ、生活様式と体構造を多様化させた進化上の大エポックであった。
そのため、脊椎動物は顎をもたない無顎類と顎をもつ顎口類に大きく分類される。
顎口類は水中で軟骨魚類と硬骨魚類の2方向に大分化をとげたが、硬骨魚類のあるものは鰭を四肢へ変化させ、
鰓から肺へと呼吸・循環システムを転換させることなどによって、陸上への進出を果たした。
水中にとどまった顎口類が狭義のあるいは厳密な意味での魚類であり、
これに対応する陸上動物(両生類・爬虫類・鳥類・哺乳類)をまとめて四肢(四足)動物という。
しかし一般には、ヤツメウナギなどをも含めて鰓呼吸を行う水生変温脊椎動物のすべてを魚類と呼ぶことがあり、
この場合、魚類は顎口類の一部(狭義の魚類)と無顎類にまたがる広義のカテゴリーということになる。
無顎類は現生種数はごく少ないが、本書では無顎類も魚類に含め検討の対象としている。
魚類は、その生息域の塩分環境によって淡水魚と海産魚に大別される。 さらに淡水魚は、それぞれのグループが進化した水域の塩分環境とそれに由来する魚種の塩分抵抗性の度合いによって、いくつかのカテゴリーに分類される。 淡水中で進化し塩分抵抗性をもたない第一次淡水魚、種独自のパターンで淡水と海のあいだを往復する遡河性・降海性・両側回遊魚などがそれである。 汽水魚については厳密な生態的定義はないが、生活史の一部あるいは全期間、 生活史上の必然性によって淡水の影響を受ける水域に出現する魚種と定義することができよう。 淡水域は海水域に比べごく狭小だが、そこで全生涯あるいは生活史の一部を過ごす魚類は、地球上に出現する全魚種約24,000種の3分の1以上にも達する。 このように、さまざまな機能改良に成功した哺乳類は、現在地球上の水中から空中まで、多様な環境に適応し繁栄している。 |
●日本の汽水・淡水魚相の特徴と現状
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地質時代のかなりの期間アジア大陸と陸つづきであった日本列島では、塩分抵抗性がなく陸域を通じてのみ移動分散が可能な純淡水魚
(第一次淡水魚=コイ目・ナマズ目魚類と代理性淡水魚=スズキ目ケツギョ科オヤニラミ)の種構成において朝鮮半島・中国大陸との類縁性が高い。
ただし、大陸部に比べ種数は少なく、大型肉食性魚種を欠いている。
また大陸からの分化もある程度進んでいて、とくにコイ科とドジョウ科では種・亜種のレベルでの固有化が進んでいる。
このような純淡水魚相は、安定した陸域として大陸と接触する時期が長かった西日本で豊富で、
陸域としてより不安定であった東日本では、北東に向かうにしたがって貧弱となる。
純淡水魚以外では、サケ目サケ科、トゲウオ目トゲウオ科、カサゴ目カジカ科など北方系の回遊性魚種とその陸封型が東北日本に数多く出現し、 他方、南西諸島を中心とする南日本からは熱帯性のハゼ類がマングローブを含む沿岸の汽水・陸水域に多数生息する。 これら日本原産の汽水・淡水魚類の種数は、分類学上の見解の違いやどこまでを汽水魚に含めるかによって変わるが、 本書巻末の参考資料1には272種・亜種がリストされている。 日本産汽水・淡水魚類の生息地は多くの場合狭小で、人里近くにあるため人間の営為の影響を直接受けやすく、生息環境は容易に劣化、消滅する。 このような脆弱性にさらに外来魚種による生態的圧迫・捕食などが加わって、日本産汽水・淡水魚類の減少傾向は依然として顕著である。 |
●選定の基本的考え方と選定結果
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レッドリスト(レッドデータブックに掲げるべき日本の絶滅のおそれのある野生生物の種のリスト)に掲載する種の選定は、
本書の10ページに記された基本方針に従って行った。
この方針は、他の脊椎動物の場合と基本的に同様であるが、汽水・淡水魚類の場合は、以下の2点が特徴と言える。
1)亜種レベルに満たないグループであるサツキマス、イワメ等は単独での選定評価は行わず、当該グループが属する亜種全体で評価したこと、
2)亜種名が存在しても分類上の議論があるゴギ、ハリヨ等は、単独での選定評価は行わなかったこと。
評価作業の結果、レッドリストには絶滅(EX)から情報不足(DD)まで計96種・亜種と、付属資料として14地域個体群(LP)が掲載された。 これらのうち、「絶滅のおそれのある種」(CR,EN,VU)は76種・亜種で、前述した日本産汽水・淡水魚類272種・亜種の約28%にあたる。 この76種・亜種のうち35種・亜種はハゼ科魚類で、その約4分の3が奄美・沖縄・八重山諸島産である。 これは、南西諸島に生息するハゼ類の知見が充実し適切な評価が可能になったことや、 分布範囲がきわめて限定されており生息数の減少が起こりやすいことなどによる。 1991年版のレッドデータブックで絶滅危惧種・危急種に選定されたのは22種・亜種であり、 今回の76種・亜種には旧版ではリストされていないものが49種・亜種加わっている。 その中に、メダカなどの日本人にはごく身近な存在でいまでも普通に生息していると思われていた種があげられたことは特筆に値しよう。 一方で、旧版で絶滅危惧種とされていたサツキマスは、上記の方針に従い今回は選定されなかったが、 サツキマスの自然個体群の希少性の評価を左右するものではない。 また、同様の理由で、レッドリストでLPとしてあげていた2地域個体群を本書で削除した。 最後に、選定された種・亜種が現在生息している環境は、残された数少ない良好な生息環境であり、 それらを評価・分析することにより、 汽水・淡水魚類全般にわたる効果的な保護方策の検討が望まれることを指摘しておきたい。 |
多紀 保彦(東京水産大学名誉教授)
■レッドデータブック掲載種 汽水・淡水魚類
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