宮城県大崎市蕪栗沼を対象にした生態系サービスの価値評価

田んぼに飛来したマガン
評価対象 宮城県大崎市蕪栗沼を対象にした生態系サービスの価値評価
区分 国内
場所 宮城県
評価年 2010年
評価の実施者 長崎大学
評価に至った
経緯

  • 蕪栗沼とその周辺の水田は、日本に飛来するガン類の約8~9割が冬を過ごす場所として知られており、2005年にラムサール条約に登録された。
  • 蕪栗沼では、周辺農家が協力して冬の時期にも田んぼに水を張っている「ふゆみずたんぼ」に取り組んでいることが特徴である。これにより、周辺地域の水田も渡り鳥の生息地として利用することが可能になる。蕪栗沼では、NGOや周辺農家の協力などにより、ガン類の飛来数が次第に増加し、10年間で飛来数が7倍以上になった。
  • 以上の背景を受けて、蕪栗沼の保全策を実施した場合に、価値観が様々な人々にどのような影響を及ぼすのかを考察するため、経済的価値評価を実施した。

評価手法 CVM/コンジョイント分析
評価結果
  • 全国を対象としたWebアンケートにより、CVM及びコンジョイント分析を用いて経済価値評価を行った。(回答サンプル数 3,257人)

<CVMによる評価結果>

  • 蕪栗沼に飛来する水鳥を保護し、現在の飛来数を維持するための保護活動に対する支払意思額(WTP)を尋ねた。

  ■CVMにより推定されたWTP(1世帯当たり)

中央値:
917円/年
平均値:
2,004円/年

<コンジョイント分析による評価結果>

  • 「蕪栗沼の湿地面積」、「ふゆみずたんぼの面積」、「水鳥の観察施設」、「負担額」の4種類の属性を用いて限界支払意思額を算出した。

  ■コンジョイント分析による評価結果(全サンプルの場合)

湿地保全:
858円/100ha・年
ふゆみずたんぼ:
249円/100ha・年
水鳥の観察施設の有無:
178円/年

■コンジョイント分析の結果の考察

  • 宮城県(地域住民)のデータでは湿原保全と"ふゆみずたんぼ"の限界支払意思額は有意ではなかったことから、湿原保全や"ふゆみずたんぼ"の面積は、地元住民の支払意思にほとんど影響していないことが示された。
  • 宮城県民のデータでは「水鳥の観察施設」は1,721円で、これは宮城県以外のサンプルと比べて高い値を示したことから、地元の人は、蕪栗沼の利用価値を重視していることが示唆された。
  • 宮城県以外の一般市民は、「湿地保全」、「ふゆみずたんぼ」の限界支払意思額が、「観察施設整備」より高い値を示した。これは、宮城県以外の一般市民が蕪栗沼から遠く離れているため観察施設を利用する可能性が低く、利用価値よりも非利用価値を重視していると考えられる。
参考資料

平成23年度 環境経済の政策研究 経済的価値の内部化による生態系サービスの持続的利用を目指した政策オプションの研究 最終研究報告書 平成24年3月 財団法人地球環境戦略研究機関(IGES) 京都大学 長崎大学 名古屋大学