供給サービス

食料供給

食糧供給のイメージ(天日干しされる魚)

農業生態系や海洋生態系によって、食料を供給するサービス

地球表面の35%は農業や畜産業に利用され、人類の食料の大半は、約30種の作物に依存しています。また、水産養殖も含め、海洋生態系の動植物は、人間にとって重要な動物性タンパク源です。

農業生態系では、生物多様性が低下し作物の遺伝的多様性が喪失すると、病原菌で全滅するなど、大きな社会的・経済的損失を引き起こす恐れがあります。このように、経済的・生態学的観点からも、生物多様性が重要であると考えられています。有機農法は、作物生産量が低下する場合があるものの、生物多様性を向上させることのできるシステムです。

私たち人間の食事は、海洋生態系にも依存しています。水産養殖により増加する人口を養うための魚類を増産することができますが、健全な自然生態系と生物多様性が維持されていなければ成り立たちません。

水流の調整及び浄水を含む水供給

水流の調整及び浄水を含む水供給のイメージ(渓流の風景)

地球規模の水循環や、水の供給、調整・浄化に関するサービス

草木、特に森林は、流域内を循環する水に大きな影響を及ぼし、森林によって大気湿度や水蒸気収束が増大し、雲発生や降雨の確率が上がると考えられています。

生物多様性と水の調節・浄化との関係はまだ解明されていませんが、森林や湿地の生態系は植生・微生物・土壌によって水の流れを調節し水質を改善しています。私たちの生活に不可欠な淡水を作り出し提供する生態系の能力は、樹木伐採や水質の富栄養化など私たち人間の活動から大きな影響を受けています。

燃料及び繊維などの原材料

燃料及び繊維などの原材料のイメージ(貯木場)

オイルなどの燃料、木材、綿、ジュートなどの原材料を供給するサービス

歴史的に見ても非常に重要な生態系サービスであり、私たちは自然生態系から、製品生産や燃料のための極めて多種多様な原料を得ています。

木材については、種の多様性の豊かな山や森林では、一般的に材木として利用できる商業種の割合は低く、一方で、種の多様性が豊かであれば、個々の木の成長が促進され、熱帯樹植林地の生産量が増大することや害虫被害を受けにくくなることが分かっています。バイオ燃料を生産するうえでは、生物多様性が直接的な役割を果たすことはないと考えられています。

森林、サバンナ、草地、海洋、沿岸など、ほとんどの生態系がこのサービス提供に重要な役割を果たしています。森林面積の減少に比例して、天然の木材や植物繊維、薪の供給低下が生じると考えられています。

遺伝資源

遺伝資源のイメージ(品種改良)

品種改良などにより、農作物の生産性及び、有害生物や気候変動への適応力を向上させるサービス

遺伝資源は、農業や畜産業、漁業、水産養殖等にとって、生産量増加、病害抵抗性、栄養価の最大化、そして地域的な環境や気候変動への適応をすすめるため、重要性を増すと考えられています。

生物多様性が低下すると、必然的に遺伝的多様性が失われることから、最も生物多様性を必要とするサービスであるといえます。

農業では、大量に収穫するために品種改良された品種への置き換えは、遺伝的多様性の低下を促進し、病気や気候変化などのストレスに対応するための柔軟性に影響を与えるという側面もあります。

薬用資源及び他の生化学資源

薬用資源及び他の生化学資源のイメージ(漢方薬)

生化学薬品等、さまざまな高価値の化学薬品を提供するサービス

全ての生態系の生物多様性は生化学薬品の潜在的な供給源ですが、どの種または生態系が貴重な薬品を提供するかを予測することは困難です。

現在の世界的な生物多様性の減少が、新たな生化学薬品の発見に及ぼす影響は、おそらく大幅に過小評価されています。たとえば木材の切り出しなど、比較的経済的な価値の低い活動による生物多様性の損失は、新たな生化学薬品の発見など、将来の(まだ発見されていない)高価値な活動に影響を及ぼす恐れがあります。

観賞用資源

観賞用資源のイメージ(水槽で泳ぐ観賞魚)

観賞用の植物、魚、鳥類等を提供するサービス

生物多様性は、人間社会の発展を通じて、象徴や装飾としての役割を果たしてきました。たとえば、地位や身分・影響力を誇示するために、羽毛など動物の一部を身に着けることがありました。現代では、野生の魚類や鳥類が自然生息地から捕獲され、ペット取引の対象となり、種の存続が危ぶまれている事例もあります。

このサービスは、資源となる個々の種が、存続可能な個体群を維持できるかどうかにかかっています。

※出典
TEEB報告書 D0 生態学と経済学の基礎