19 全ての絶滅危惧種(維管束植物)の効率的な保全に寄与する地域

  • 19 全ての絶滅危惧種(維管束植物)の効率的な保全に寄与する地域

    19 相補性分析

  • 参考1 維管束植物レッドリスト掲載種の短期的保全指数(C指数)

    参考1 C指数

  • 参考2 維管束植物レッドリスト掲載種の長期的保全指数(D指数)

    参考2 D指数

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概要

限られた資源(資金・人材)の中でできるだけ多くの絶滅危惧種の効率的な保全に寄与する地域を示した地図。

考え方

限られた資源(資金・人材)で効率的に日本全体の生物相の多様性を保全していくためには、保全効果が高い地域を抽出し、優先順位を付けた上で対策を講じる必要がある。このため、この地図では、保全の優先順位が高い地域を抽出する方法として、次の2つを実施した(詳細はBOX参照)。
1 相補性分析(Complementary Analysis)
2 短期的保全指数(C指数:Conservation Index)及び 長期的保全指数(D指数:Destruction Index)

相補性分析は、「分析対象とする全ての種について一定面積を確実に保全する」という目標を、合計保全面積を出来るだけ小さくしながら達成する場合に、選択すべき場所を特定する分析である。

C指数は、当該メッシュに分布する全ての種を保全することによって減少を止めた場合に、日本全体での絶滅リスクが緩和される度合いを示す。すなわち、急激に種が減っており、保全に急を要する場所を示している。D指数は、当該メッシュに分布する全ての種の個体群が完全に失われた場合に、日本全体での絶滅リスクが増大する度合いを示す。すなわち、破壊を防ぐべき良好な場所や貴重な場所を示している。

なお、本地図の評価対象種は、保全対象の種の移動性や分布データの充実度の観点から維管束植物のみを対象としている。

データ及び加工方法

1 相補性分析
レッドリスト掲載の維管束植物1,219種を対象に2次メッシュ単位での分布の有無情報を用いた分析を行った。

各種最低1メッシュで保護されることを目標として、相補性分析(BOX参照)によってメッシュを選定した。この際、既存の保護区の設置状況は考慮せず、メッシュ内に出現する生物相に影響を与えるメッシュ内の海岸線の状況は考慮せず、すべてのメッシュ面積は一定(保全コスト一定)とみなした。

目標の達成が可能な保全対象メッシュのセットは複数存在するため、図では100回の相補性分析を試行したうち、当該メッシュが保全対象地として選ばれる割合を非代替性の指標として示している。この割合(非代替性)が高いほど、効率的な保全を行う際の対象メッシュとしての相対的な重要性が高いことを示している。

2 C指数、D指数
レッドリスト掲載の維管束植物1,291種を対象に2次メッシュ単位での分析を行った。2次メッシュごとの対象種の分布個体数および10年間の減少率情報を用いた。愛知目標では、「少なくとも陸域及び内陸水域の17%を保全する」という数値目標が掲げられているため、いずれの指数でも全メッシュ数の17%に当たる760メッシュを、値の高い順に抽出し示した。

【データ】

  • 植物I(維管束植物)レッドデータブック 公開種分布データ(平成13年、環境省)
  • 植物I(維管束植物)レッドデータブック 非公開種分布データ(植物分類学会・非公開)

※相補性分析は赤坂宗光氏(東京大学)・角谷拓氏(国立環境研究所)、C指数・D指数の分析は矢原徹一氏(九州大学)の研究に基づく。

地図により表現される生物多様性の状況

これらの解析により、維管束植物の絶滅を防止する観点から保護の効果の高い地域が示されている。

1 相補性解析
100回の試行で選択された、もっとも非代替性の高い地域としては、屋久島から与那国島までの南西諸島の各島、小笠原諸島・伊豆諸島、対馬や甑島、利尻島や礼文島といった離島の島々である。これらの島々は島ごとに特徴的な種が多数みられるため、非代替性が高い地域となっている。

北海道では大雪山、夕張、日高山脈、本州では早池峰山、月山、鳥海山、白馬岳、八ヶ岳、南アルプスや富士山周辺、伊吹山、鈴鹿、大台ケ原周辺、九州では阿蘇、霧島等のそれぞれの地域の山岳部が選択されている。また、知床、襟裳岬、男鹿半島、伊豆半島、長崎等の半島部、釧路湿原や尾瀬、日光といった湿原、東海や瀬戸内、九州各地等に見られる湧水や湖沼・ため池に伴う湿地等の特徴的な生態系を持った地域が広く選択されている。これらの地域も離島と同様にそれぞれの環境に特徴的な種が分布するため、優先度が高い地域と考えられる。

これらの地域は、絶滅危惧種となっている維管束植物を保護する上で効率的な地域であることを、今後の地域計画等に反映できるとよいだろう。

2 短期的保全指数(C指数)、長期的保全指数(D指数)
今後、全国的な観点から維管束植物の絶滅を回避する方策をとる場合に、本解析地図が参考になると考えられる。C指数においては、保全効果の高い地域が示されている。これらの地域は全国に分布するが、関東南西部から東海地方、紀伊半島、四国、九州、沖縄県の各島嶼などに比較的集中している。

D指数においては、開発等による破壊の影響が大きい地域が示されている。C指数の分布とやや類似している。

BOX

1 相補性分析(Complementary Analysis)
相補性分析は、対象となる全種の分布データを使用し、種の組成が重ならない(相補性の高い)区画のセットを選ぶことで「全種を1ヶ所以上で保全する」といった保全目標を、できるだけ少ない保全面積で達成するための方法である。
例えば、「全種を最低1ヶ所で保全」という目標の達成を以下の3つの区画の場合で考える:

相補性分析(Complementary Analysis)

ここで、区画Aがすでに保全対象として選択されている場合、種数にのみ注目すれば区画Cよりも種数が多い区画Bが選択されるが、相補性解析においては、区画Aとの種の重なりが少ない(相補性の高い)区画Cが選択される。その結果、保全対象区画としては区画Aと区画Cが選択される。このような手順で、対象種ごとに最低保全すべき任意の区画数の目標をたて、その目標をできるだけ少ない総区画数で実現するための区画セットを特定するのが相補性解析である。

相補性解析にはクイーンズランド大学の研究グループが開発しているMarxan (http://www.uq.edu.au/marxan/)とよばれるソフトウェアを用いた。

多くの場合において、同じように目標を達成可能な区画セットは複数存在するため、相補性解析を何回も試行した場合に、選ばれる回数が多いほど、相対的な重要性(他の区画との代替ができない、非代替性)が高い区画であると見なされる。

2 短期的保全指数(C指数:Conservation Index)及び 長期的保全指数(D指数:Destruction Index)

C指数は、ある場所に生育するすべての絶滅危惧種について、将来10年間に減少が起きないように徹底して保全した場合に、全国的な絶滅リスクをどれだけ減らせるかを示す指数である。あるメッシュを10年間徹底して保全したとすれば、当該メッシュで当該種の絶滅確率が50%に達するまでの年数が延びる。その延びを、そのメッシュに生育するすべての絶滅危惧種について足し合わせたものがC指数である。

D指数は、ある場所の全絶滅危惧種の自生地を破壊し、そのメッシュから消失させた場合に、全国的な絶滅リスクがどれだけ高まるかを示す指数である。あるメッシュの自生地を破壊したとすれば、当該メッシュで当該種の絶滅確率が50%に達するまでの年数が縮まる。その縮まりを、そのメッシュに生育するすべての絶滅危惧種について足し合わせたものがD指数である。

(Yahara et al. in press)

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データの出典

【全ての絶滅危惧種(維管束植物)の効率的な保全に寄与する地域】

  • 赤坂宗光氏(東京農工大学)及び角谷拓氏(国立環境研究所)の解析結果データ
データに関する注意事項等

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