16-2 地球温暖化による生態系・種への影響が懸念される地域(イワナの生育適地の変化予測)

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概要

地球温暖化に伴うイワナ類の生息適地の変化を予測した地図。

考え方

国内の代表的な渓流魚であるイワナ類は冷水域に生息する魚類であり、日本産のイワナは世界のイワナ類の中でも南限に分布する。

河水残留型のイワナは、過去の氷河期の寒冷な時代に海と河川との間を往復する降海型であった個体群が、氷河期後の温暖化とともに水温の低い各河川の上流域に閉じ込められたと考えられる。そのため河川・支流毎に長い間、遺伝的な交流がなく、それぞれに独自に分化して多様な変異が認められる。

イワナ類は渓流釣りの対象魚として人気があるため、捕獲圧が高いほか、河川の横断工作物による生息地の分断化や改修工事、他の河川から持ちこまれた個体や外来魚・養殖魚の放流等により交雑や競合を起こし、個体群の縮小や純粋な地域型の個体が少なくなっている。そうした状況の元で温暖化の影響によって水温が上昇すると、生息に適する地域が減少し、地域個体群の絶滅リスクが高まる。

本地図ではこうした状況にある日本産のイワナ類について、現存の分布記録を元に現在の環境下における生息域の予測モデルを作成し、気候変動に関する政府間パネルIPCC(2007)等を参考に水温が3℃上昇すると生息適地がどのように変わるかを予測した。

データ及び加工方法

本地図ではイワナ類の分布を鑑み、本州以南と北海道の2つの地域に分けて予測を行った。

  • 本州のイワナ類
    本州においては、ニッコウイワナ・ヤマトイワナ等の陸封性のイワナ(Salvelinus leucomaenis)を予測に用いた。降海型が混ざるアメマスは除いたほか、放流個体に由来すると考えられる個体群の分布データは除いている。例えば移入と考えられる九州・四国の個体群は除いて解析した。

    【イワナ類の分布記録の出典】

    • 自然環境保全基礎調査 動物分布調査報告書 淡水魚類(平成14年、環境省)
    • 国土交通省 河川水辺の国勢調査(平成4~17年、国土交通省)
    • 各種文献および観察記録(兵庫県立人と自然の博物館所蔵)

    【解析ソフトと環境データ】
    上記の分布記録を基にMaxentを用いて分布適地の予測を行った。

    参考)Maxent software for species habitat modeling
    http://www.cs.princeton.edu/~schapire/maxent/

    予測に用いた環境データは以下の通りである。

    • 地下水温の推測値(標高と緯度を独立変数とした推定式を適用(Nakano et.al 1996))
    • メッシュ気候値2000(気象庁)
    • 傾斜角度(3次メッシュ内の平均値:国土地理院・数値地図50mメッシュから生成)

    【生息適地図の作成】
    本モデルの予測精度を表し1に近いほど良い精度とされるAUCは0.766であった。このモデルの結果を元に現状の水温及び仮に3℃水温が上昇した場合の生息適地図を本州及び移入の可能性が高いが生息が確認されている四国・九州において作成した。

  • 北海道のオショロコマ
    北海道についてはオショロコマ(Salvelinus malma)を予測に用いた。分布記録においては識別が困難なため、放流だが再生産が確認されている地点を含んでいる。

    【オショロコマの分布記録の出典】

    • 自然環境保全基礎調査 動物分布調査報告書 淡水魚類(平成14年、環境省)
    • 国土交通省 河川水辺の国勢調査(平成4~17年、国土交通省)

    【解析ソフトと環境データ】
    上記の分布記録を基にMaxentを用いて評価を行った予測に用いた環境データは以下の通りである。

    • 地下水温の推測値(標高と緯度を独立変数とした推定式を適用(Nakano et.al 1996))
    • 傾斜角度(3次メッシュ内の平均値:国土地理院・数値地図50mメッシュから生成)
    • 火山岩の有無(産業技術総合研究所地質調査総合センター (編) (2010) 20万分の1日本シームレス地質図データベース)

    【生息適地図の作成】
    本モデルの予測精度を表すAUCは0.736であった。このモデルの結果を元に現状の水温及び仮に3℃水温が上昇した場合の生息適地図を北海道地域において作成した。

(引用・参考文献)
Nakano S., F. Kitano and K. Maekawa, 1996: Potential fragmentation and loss of thermal habitats for charrs in the Japanese archipelago due to climatic warming, Freshwater Biology, 36, 711-722.

産業技術総合研究所地質調査総合センター (編) (2010) 20万分の1日本シームレス地質図データベース 2010年2月1日版.産業技術総合研究所研究情報公開データベースDB084,産業技術総合研究所地質調査総合センター.

地図により表現される生物多様性の状況
  • 本州・四国・九州のイワナ類
    本州のイワナ類については現在、東北地方から中部地方までの山間部に広く生息好適地が存在するほか、中国地方や紀伊半島の高標高の渓流にも適地が存在する。仮に水温が3℃上昇すると中部山岳以西の西日本の好適地はほぼ無くなるほか、東日本においても生息適地は高標高地のみに限られる。

    また四国・九州については、もともと自然分布の記録は無いが、現在は渓流釣りの対象魚として山間部の渓流で移入されている。これらも仮に3℃水温が上がる場合には生息適地がほとんど消失すると推定される。

  • 北海道のオショロコマ
    現在の生息適地は石狩平野や十勝平野などの低標高の平野部を除き、北海道の全域に広く分布する。

    仮に水温が3℃上昇すると石狩平野以西の好適地はほとんど無くなり、石狩以東の好適地も石狩山地、日高山地、知床半島等の高標高地に分断される。

    イワナ類、オショロコマが分布しており、かつ水温の上昇により生息確率が低下する地域においては、イワナ類等の生息状況および水温のモニタリング体制を充実・強化するととともに、適応策を検討・実施する必要がある。

データの
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データの出典

【イワナ類・オショロコマ類の分布データ】

  • 自然環境保全基礎調査 動物分布調査報告書 淡水魚類(平成14年、環境省)
  • 国土交通省 河川水辺の国勢調査(平成4~17年、国土交通省)
  • 各種文献および観察記録(兵庫県立人と自然の博物館所蔵)

【生息適地図のデータ】

  • 三橋弘宗氏(兵庫県立大学)らの解析結果データ
データに関する注意事項等

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