16-1 地球温暖化による生態系・種への影響が懸念される地域(ブナの生育適地の変化予測)

画像をクリックすると、拡大表示されます。

概要

地球温暖化に伴うブナ林の生育適地の変化を予測した地図。

考え方

地球温暖化の進行により、生態系の攪乱や種の絶滅など、生物多様性に対して深刻な影響が生じることが危惧されている。

わが国においても地球温暖化による生物多様性の危機が危惧されており、実際に地球温暖化が影響して生物の分布や生物季節(フェノロジー)に変化が生じていると考えられる事例が数多く報告されている。

このような中、地球温暖化が生態系にどのような影響を及ぼすかを予測し、地球温暖化の影響への適応策を検討・実行することが重要である。

このため、北海道から九州まで広く分布しているわが国の森林を代表する落葉広葉樹林であるブナ林について、地球温暖化により生育適地がどのように変化するかの予測を示した。

データ及び加工方法

【ブナ林の分布の出典】
以下のデータを用いて、全国を対象にブナ林を抽出した。なお、近縁種であるイヌブナ林は解析対象外とした。

  • 自然環境保全基礎調査 第5回植生調査 現存植生図
    (平成5~10年, 環境省)

【解析ソフト及び環境データ】
上記の分布データを基に、Maxentを用いて分布適地の予測を行った。

参考)Maxent software for species habitat modeling
http://www.cs.princeton.edu/~schapire/maxent/

予測には、温度と植生の対応を示す指標、成長期の水分供給の指標、冬季の乾燥や積雪の指標、冬季の低温の極値の指標として、以下の4つの環境データを用いた。(Matsui et al, 2004)

  • 温かさの指数・・・・・・・・・・・・・・・・・温度と植生の対応を示す指標
  • 夏期降水量(5~9月)・・・・・・・・・成長期の水分供給の指標
  • 冬期降水量(12~3月)・・・・・・・・冬期の乾燥や積雪の指標
  • 2月(最寒月)の最低気温・・・・・・冬期の低温の極値の指標(注1)

現在の気候データは、WorldClimのデータを用いた。また、将来(2100年頃)の気候変化シナリオはCCM3を用いた。このシナリオでは日本付近では2100年頃に年平均気温で1.0~2.5℃上昇すると予測されている。これらのデータはWEB上で公開されており、http://www.worldclim.org/からダウンロード可能である。

本モデルの予測精度を表し、1に近いほど良い精度とされるAUCは0.914であった。地図では、生育確率が0.5以上である場合を適地とし、赤色で示した。

地図により表現される生物多様性の状況

現在のブナ林は、本州北部から中部地方にかけて分布の中心がある。また、北海道南部や中国地方、四国、九州の山岳地域にも分布している。

2100年頃には、全国的にブナ林の生育適地が大幅に縮小すると推定される。特に東北地方太平洋側、中国地方、四国、九州においては、生育適地はほとんど消失してしまう。分布の中心である本州北部から中部地方にかけても、生育適地が大幅に縮小すると予想される。

ブナ林が分布しており、かつ生育確率が低下する地域では、モニタリング体制を充実・強化するとともに、時間をかけて温暖化に適応し、変化に幅広く対応できるよう、生態系ネットワークの構築などの適応策を検討、実施することが重要である。

(引用・参考文献)
Hijmans, R.J., S.E. Cameron, J.L. Parra, P.G. Jones and A. Jarvis, 2005.
Very high resolution interpolated climate surfaces for global land areas.
International Journal of Climatology 25: 1965-1978.
Matsui,T.,Yagihashi,T.Nakaya,T.,Tanaka,N.,and Taoda,H.(2004)Climatic
controls on distribution of Fagus crenata in Japan. Journal of Vegetation
Science 15:57-66.

文部科学省・気象庁・環境省(2009)温暖化の観測・予測及び影響評価統合レポート「日本の気候変動とその影響」

注1) Matsui et al(2004)は最寒月の日最低気温の月平均を用いているが、今回使用した気候データには日最低気温がないため、データのある最寒月の最低気温を用いた。

データの
ダウンロード
データの出典

【現在のブナ林の分布データ】

  • 自然環境保全基礎調査 第5回植生調査 現存植生図(平成5~10年, 環境省)

【環境データ】

データに関する注意事項等

PDFファイルの閲覧、プリントなどを行うには最新のAdobe Readerをダウンロードしてください。

Get ADOBE READER

ページトップへ戻る