生物多様性影響評価の方法について

 カルタヘナ議定書に基づくリスク評価は、遺伝子組換え生物等が生物の多様性の保全及び持続可能な利用に及ぼす可能性のある悪影響を特定し、評価することを目的としている。カルタヘナ議定書の国内担保法であるカルタヘナ法に基づく生物多様性影響評価とは、遺伝子組換え生物を第一種使用規程(第一種使用等の内容及び方法等を規定したもの)に従って使用等した場合の野生動植物等への作用の態様を明らかにし、当該野生動植物等の種又は個体群の維持に支障を及ぼすおそれの有無等を判断することであり、その具体的な方法は以下のとおりである(以下は、「生物多様性影響評価実施要領」(以下「告示」とする。)の内容の説明である)。
 なお、実際に生物多様性影響評価を行う際の手順の詳細は、個々の申請案件によって必要となる情報が異なる場合もあることから、申請案件毎に検討することになる。

1.遺伝子組換え生物の特性等の明確化
 遺伝子組換え生物の特性のうち、生物多様性影響評価を行うにあたって考慮すべきと考えられる内容に関する情報を収集・記載する。収集すべき情報の種類は告示に掲載されている(遺伝子組換え農作物の場合に収集すべき情報の種類については、更に詳細な内容が
局長通知に掲載されている)。具体的には、宿主に関する情報、供与核酸に関する情報、遺伝子組換え生物と宿主の相違に関する情報等である(今までの使用実績等を含む)。なお、収集すべき情報として告示に掲載されている情報であっても、それらを収集する必要がないと考える合理的な理由がある場合は、収集しなくてもよいこととなっている。

2.生物多様性影響を生じさせる可能性のある性質の有無の判断
 上記により明らかになった遺伝子組換え生物の特性等を考慮しつつ、「生物多様性影響を生じさせる可能性のある性質」の有無を判断する。「生物多様性影響を生じさせる可能性のある性質」とは、例えば、遺伝子組換え植物の場合は、「競合における優位性」、「有害物質の産生性」、「交雑性」及び「その他の性質」である。
 遺伝子組換え生物が上記の性質を有していないと判断された場合は、生物多様性影響が生ずるおそれはないと結論づけることとする。
 この際、国内において長期間利用されてきた生物が宿主である遺伝子組換え生物については、宿主と比較して「生物多様性影響を生じさせる可能性のある性質」の程度が高まっているか否かによって判断することができるとされており、その性質の程度が高まっていない場合は、その性質を有しないとみなしてよいこととなっている。

3.影響を受ける可能性のある野生動植物等の特定
 遺伝子組換え生物が「生物多様性影響を生じさせる可能性のある性質」を有すると考えられる場合は、当該性質により影響を受ける可能性のある野生動植物等の国内における生息の有無に関する情報を収集し、国内に生息すると考えられる場合はそれらの野生動植物等を特定する。なお、多くの種が影響を受ける可能性のある野生動植物等として特定された場合は、それらの生息環境、有害物質への感受性、遺伝子組換え生物との近縁性等を勘案し、以下の「影響の具体的内容の評価」及び「影響の生じやすさの評価」の対象とする生物種を「代表種」として選定できることとなっている。
 影響を受ける可能性のある野生動植物等が国内に生息・生育していない場合は、生物多様性影響が生ずるおそれはないと結論づけることとする。

4.影響の具体的内容の評価
 上記により特定された野生動植物等の種又はそれらの代表種の個体が、遺伝子組換え生物の「生物多様性影響を生じさせる可能性のある性質」によって、具体的にどのような影響を受ける可能性があるのかを明らかにする。そのため、ここでは、野生動植物等の生理・生態学的特性に関する既知の情報を収集するとともに、必要に応じ、バイオアッセイ、交雑試験等を新たに実施する。

5.影響の生じやすさの評価
 上記により特定された野生動植物等の種又はそれらの代表種について、地域個体群(固有の特性を有し、我が国における生物多様性の構成要素として保護すべきと考えられるもの。以下同じ。)も考慮しつつ、遺伝子組換え生物の「生物多様性影響を生じさせる可能性のある性質」によってどの程度の影響を受けることとなるのかを判断する。そのため、ここでは、必要に応じ、特定された野生動植物等の生理・生態学的特性に関する既知の情報を収集するとともに、可能な範囲で野外調査やシミュレーション試験等を実施する。

6.生物多様性影響が生ずるおそれの有無等の判断
 「影響の具体的内容の評価」及び「影響の生じやすさの評価」の結果を踏まえて、第一種使用規程に従った遺伝子組換え生物等の使用等が、特定された野生動植物等の種又は地域個体群の維持に支障を及ぼすおそれがあるか否か等を判断する。
 例えば、遺伝子組換え植物について、@〜Bの観点から判断する。
  @ 特定された野生植物と栄養分、日照、生育場所等の資源を巡って競合することによって、それらの種又は地域個体群の維持に支障を及ぼすおそれがあるか否か
  A 特定された野生動植物等の生息に支障を及ぼす物質を産生することによって、それらの種又は地域個体群の維持に支障を及ぼすおそれがあるか否か
  B 特定された野生植物と交雑し、移入された遺伝子をそれらに伝達することによって、それらの種又は地域個体群の維持に支障を及ぼすおそれがあるか否か

影響評価項目の例
生物多様性影響評価フロー